二千円札

 今朝、今年初めて蝉が鳴いた。
 一匹。
 自分以外に仲間がいないことを、この一匹はどう思っただろう。
 アメリカ在住の友が帰国した。
 今年も同じホテルのレストランでランチ。
 このホテルを知ってから、ランチはここ、と決まった。
 それまでは、毎回、どこで食べるかを決めるまでに時間がかかるし、店を
出て、次に腰を落ち着ける喫茶店を探すのにもまた時間がかかっていたが、
ここなら、そういうことにならない。
 長居させてもらえることも織り込み済みで、ランチとしては値が張る価格
設定になっているのだろう。
 そうは言っても、限度はある。
 まだ喋り足りない時は、ホテルのロビーのソファーに場所を移す。
 そうした。
 だが、その前にランチの精算。
 私がクレジットカードで二人分支払い、友は彼女の分を現金で返してくれ
た。
 二千円札が三枚。
 ドルから日本円に両替した時に渡されたと言う。
 一瞬、拒否したい気持ちが芽生えたのは、このお札は久しく目にしたこと
がなく、本当に流通しているのか、疑いたくなったからだろう。私がこのお
札を使う時にすんなり受け取ってもらえないのでは、と危惧したということ
だ。
 ただ、新札だったので、定期的に製造されているのだと理解し、受け取っ
た。
 と、このタイミングで、「二千円札の今」に関する記事に遭遇。
 二十年ぶりの新紙幣発行に絡めて、存在不明の二千円札が話題に取り上げ
られた模様。
 二千円札は2000年度に七.七億枚、2003年に一.一億枚製造されたのみ
で、しかし流通枚数はこれより圧倒的に少なく、大量の二千円札が日銀の金
庫に眠っているらしい。
 私は、受け取ったお札に折り目がなかったので新札だと思ったけれど、そ
うではなかったのか。
 でも、新札でも通りそうに綺麗なお札だし、珍しいから、しばらくは手元
に置いておこうか。
 この友が、もっとドルを円に両替しておかねば、と言った。
 そうであろう。
 ますます加速する円安。
 私は、四月にフランスから友や知り合いに絵葉書を送ろうとしたら、絵葉
書でも、絵葉書を封筒に入れても、二十グラム以下なら国際郵便料金は同じ
だと知り、封筒に入れて送ることにしたが、切手代が高い。高すぎる。
 思わず、送る予定の相手を絞ろうかと思った。
 でもそれは、私がユーロを円に換算して考えたからだった。
 対ユーロでも円が急激に降下して、止まる気配がない。
 日本は貧しい国になり始めた気がする。