折りたたみ傘

 七月八日の朝、蝉が鳴いた。
 そして、すぐに鳴きやんだ。
 次は今朝。少し長く鳴いた。
 けど、続かない。
 雨は、降りそうだが降っていない。
 晴れたらすぐにも鳴く競演を始めたい蝉達だろうに、雨ではない、とい
うだけでは駄目なのかな。
 でも待ちくたびれて、間隙を縫って鳴いたのか。
 目下のところ、私が間隙を縫ってするのは、洗濯物を外に干すこと。
 少しでも雨の止み間があったら、生乾きのままのに風を当てたい。
 一方、買い物に行く時は、雨雲レーダーで今後を確認。
 が、先日、少し長く時間がかかったら、帰る時、雨が降っている。じゃ
じゃぶり。
 傘はない。
 九州豪雨は東にも広がっているのに、無謀だった。
 百均でビニール傘を買おうか。
 でもなあ。
 前に、傘立てに入れておいたら、中高生が出入りする場所で、帰り際、
残っているのはぼろいビニール傘のみ。触っただけで違いがわかったから、
暗がりであることは取り違えの言い訳にならないと思うも、その傘を使う
しかない。
 あとで捨てた。
 こんなことがあったので、ビニール傘には警戒心がある。
 長い傘は、家に、私が買ったのが二本。
 折りたたみ傘は家にあるのを使ってきた。それで間に合うから。
 でも、自分で買ってもいいかも。
 フランスにいた時、知人の奥さんが、誕生日に旦那さんにサングラスを
買ってもらうとサングラスをしながら語ったが、しているサングラスは彼
女にとてもよく似合っているので、なぜと訊ね、夫婦に苦笑された。
 物は、その寿命を最後まで使い切ってやることだけが正しい接し方とは
言えないのかもと、この時、少し思った。
 でも、人はすぐには変われない。
 先日、デパートの財布売り場で、お札だけを入れるほぼ幅のない薄い長
財布は、別売りのカード専用ケースをこうして長財布の中に入れたらいい、
と店員に説明され、気が惹かれるのがあるかなあと見ていたら、近づいて
きた年配女性が同じように探しつつ、
「今、私が使っているのもおんなじでね」
 と見せてくれた。
「とても使いやすくって」
 と言うので、思わず、
「じゃあ、それで十分じゃないですか」
「そうよね。無駄買いするところだったわ。ありがと」
 私は、店の売上げを阻止してしまった。
 そんなことを思い出しつつ、スーパーの傘売り場で税抜込み千百円の折り
たたみ傘を買い、差して帰った。
 あ、今、蝉がまた鳴き出した。
 湿度に感応するのかな。
 買い物に行けるかな。