日本語にない外国の言葉を日本語にする時は、言葉の感性が求められる。
「経済」という言葉は、英語の「economy エコノミー」を福沢諭吉が造
ったという話は有名だが、そうと知らなければ、昔から日本語として存在
していたと思うだろう。
今、ブライダル業界が、結婚する人達が違和感を覚えるようになってい
ることを丁寧に掬い取り、現代に即した結婚式に作り替えようとしている
らしい。
たとえば、「バージンロード」という言葉。
教会での結婚式では、入り口から祭壇までを花嫁が父親と歩くが、その
足もとに敷かれた布がこう呼ばれる。
実はこれ、和製英語。日本のウェディング業界がこの言葉を造って広め
た。
単なる名称。
だから、気にすることはない。
でも、なんかひっかかる。
バージンだけが歩ける道、という意味に注目して考える人が増えてきた
からかもしれない。
これまでなら、疑問が頭をもたげても、どうせ教会の中にいるあいだの
いっときのこと、と心をなだめ、やり過ごしていたところだろう。それが
今、気になる、とはっきり自身の思いを自覚できる人達が現われてきたわ
けだ。
もし、この言葉が造語だったと知ったら、その声はさらに大きくなるか
もしれない。
便所から、トイレ、化粧室へ。
こういう言葉の変遷と違い、「バージンロード」という言葉には、結婚
するまでは、女性よ、かくあるべし、という思いが込められている。
祈り。
あるいは、呪い。
もちろん、昔なら、むしろバージンロードを歩くことを誇らしく思う花
嫁の方が圧倒的だっただろう。
しかし、時は進み、人は変わる。
ブライダル業界はこのままでは業界が先細りするという危機感に駆られ
て変革に乗り出したが、いいことだと思う。
旧来の結婚式への違和感として、もう一つ、例を挙げると、両親への手
紙が、そう。
披露宴で、キラキラ、華やかな時間のあと、お涙ちょうだいを強要され
るのは、そのあざとい演出が気恥ずかしい。
さて、私だが、本は、買うと本棚から溢れるので、図書館で借りるよう
になったが、手放せない本は本棚に並んでいる。
でも、読み返すことはなく、ただ背表紙が目に入るだけなら壁と同じで
はないか。
いや、視野に入る物が多いほど脳は情報処理する量が増えるから、壁を
見ているのと同じではないはず。
現に長引く暑さに心が苛ついたら、壁状態になっている本にイラッとな
った。
捨てる本を選び始めた。