靴は、かかと修理

 ムートンブーツを履いて玄関を出ようとしたら、右足がつんのめった。
 道を歩いていて何度かそうなったことがあるので、気にせず出かけ、
帰宅後、手に取って見たら、右側の底の爪先部分が少し剥がれている。
 つんのめったのは、このせいだったのか。
 まだまだ綺麗で、まだまだ履けると思っていたので、ショックだが、
購入後まる九年が過ぎたとわかると、その年月の長さゆえに寿命なのだ
と納得することになった。
 革のブーツを履く。
 これは、私の足型に合った靴が見つからなかった時に出合った、デパ
ートに入っている専門ブランドの一足である。
 ブーツは足を覆う部分が多いので足型に少々癖があっても履けること
が多いから、そのブランドにこだわらなくてもいいのだが、しばらくそ
こでしか買っていなかったので、ブーツもそこで買った。内側に体温で
発熱する素材が使われている、というのも決め手になった。
 さて、年が明けた。
 二日と三日は箱根駅伝を見、デパートは三日から営業で、同時に冬の
バーゲンが始まったが、是が非でも買いたい物はないので、数日後に見
に行き、靴売り場を通りかかったら、店員に声をかけられた。
 靴を見れば、そのブランドショップで買ったことは一目でわかるのだ。
 それに発売時期も。
 だから、
「お時間がおありでしたら、靴を見させていただきますが」
 と声をかけられたのだと、あとで理解した。
「綺麗に履かれていますねえ」
 ジッパーの上げ下げで足を入れたあと、足にぴったりフィットするよ
うに紐をきっちり締めることを推奨されているので、ささっと履けない。
出かけた先で、たとえば服の試着などで靴を脱ぐ可能性も考えられるな
ら、履いていけない。ゆえに履く機会は少なかった。
 ところが、右側の靴底に劣化が現れている、と言われる。
 ポリウレタンの靴底は、軽くてクッション性もあり、摩擦に強いが、
だいたい三年ぐらいで加水分解という現象が起こるとか。
 このブーツは購入して六年目に入ったところだった。
 これも寿命が来たのか。
 でも、まだ一足ある。
 買ってから軽く十五年は超えているが、去年の四月にフランスに行く
前にかかとのゴムを張り替えてもらって、まだ健在。
 気に入ったのが見つかるまでに時間がかかる私は、五年や十年で寿命
が来られたのでは早すぎる。
 靴は、かかと部分や前底を靴屋で修理してもらえるタイプから選ぶべ
し。
 そのブランドを卒業、ということになる。