革のジャケット

 思ったとおりになる事も、ならない事もある。
 だが、あまりに意外な事が起こると印象に残る。
 私の意思ではなかった、と感じる。
 どうしてそうなったのかを突き止めたくなる。
 すると、コーヒーを飲みたいから目の前のカップに手を伸ばした、とい
う行為ですら、自分の意思ではなく、自分以外の何ものかの意思でそうさ
せられたのかも、と思えてきたりする。
 少なくとも、私にとって理解不能なことが起こると、私の思考はそこま
で行き着く。
 そして毎回、面白がって終わるのだが。
 検証できないから。
 それに、仮に、人はみな、操り人形みたいなものだと検証されたとて、
その実感がないなら、結局は、すべては自分の意思だと思って行動するし
かない。
 だから、起こったことを、ただ受け止める。できれば、ちょっと面白が
る。
 革のジャケットを買った。
 二、三年前から探していたが、ファッションブランドで売られているの
はウエスト丈で細身。私に似合わない。
 海外ドラマを見てわかった。でんと存在感のあるヒップの人が着たら様
になるんだ。
 それでも凝りもせず探したのは、革は風を防いでくれるからだ。ウール
や羽毛は、暖かいが風を通す。
 すると去年、ウエストに太いベルトが通り、ハードな革ジャンだが、少
しゆったりしたシルエットの一着が見つかった。デザイナーはフランス人。
 購入を決定。
 だが、店員が、私のクレジットカードが通らない、と困惑して戻ってき
た。
 決済できない理由は、私がカード会社に問い合わせないと教えてくれな
いらしい。
「ひと月の購入限度額を超えているのかもしれません」
 後日そのデパートでセーターを買ったらカードで買えたので、そうだっ
たのだろう。
 私は、その時は、そうか、その革ジャンは高すぎるから買うな、と私の
運命を司る何ものかがサインを送ってきたのだなと思い、買うのをやめた。
 そして今年。
 やっぱり似合うのは見つからないが、そのデパートで扱いのあるすべて
のブランドを見て諦めようとマダム層のブランドに足を踏み入れたら、そ
このは、ウエストから緩やかに広がるペプラムのデザイン。襟はない。
 カーディガン代わりになるから、その上からコートを羽織れる。
 こういうのがほしかったのだ、と気づかされた。しかも、革が薄手なの
で、値段が若干安めなのも嬉しい。
 去年買えなかったのは、これを買うためだったんだ、と納得。
 こうして、この物語が完結した。