我が足に秋はない

「雨が降ったので、ブーツを履いた」
 一見普通にみえるこの文章、じっくり読んでもそのように読んでもら
えればありがたいのだが。
 私は、この夏、同じサンダルを、これでもか、というぐらい履き倒し
た。正確にはアーチフィッターワーク<バックベルト>。
 歩く時間が長いこともあり、これまで、私は、気合いを入れる必要が
ある時以外はズックやスニーカーばかり履いていた。しかし、かかとが
ないのも案外疲れる。何かいいのはないかなあと探していた目に飛び込
んできたのが、これ。
 合皮だし、かかとがすり減ったら「はい、それまでよ」の履きっきり。
ではあるけれど、ヒールの高さは5.5cm。足の形に添った弓状の足
底、立った時に体の軸がぶれない構造だとかで、購入したその場で履き
替え、昼を食べてから店に戻って別の色を購入した。つまり、その日の
うちに、色違いで2足買ってしまったわけである。その後、TVショッ
ピングの『ショップチャンネル』で紹介されているのを見た。
 けれども、時は秋。そろそろ爪先が見えるようでは、みっともない。
 このまま寒くなってくれるようなら、一気にブーツに移行してしまお
うか。
 しかししかし、それでよいのか。私は逡巡する。秋という微妙なニュ
アンスを平気で無視して素通りする態度では、さびしくはないか。
 私の母は、左足だけ、内側の妙なところの骨が飛び出ていて、笑いこ
けたくなるほどの外反母趾。「昔は10cmのハイヒールを履いていた
からねえ」。まあ、それで無事恋が成就したのであれば、若い時代の見
栄のしっぺ返しが、今、どのような形で表われようと、文句はあるまい。
 私は、そういう母を反面教師としたわけではなく、単に、大地はしっ
かり闊歩できなきゃ嫌だ、という感覚が優先して、母を見習えないだけ
のこと。なんせ、パーティの日、初めておろした新品のエナメルパンプ
スを、のぼり階段の縁に引っかけて優雅な動きが停止し、不審に思って
振り返った女性から「大丈夫ですかあ」と憐れまれたぐらいなのだ。
 やっぱ、足元2シーズン制しかないのかなあ。
 それにしても、パンプスは駄目なのに、どうして、ブーツだったら闊
歩できるのか。
 足に聞いても、返答はない。

メルマガでの配信もしています。登録はこちらまで↓
http://www.mag2.com/m/0000170945.html