カナリアが来た

 レモンカナリアのピーコが五月に死に、悲しかったが、カナリア
がいない生活はもっと寂しいので、また飼うことにした。
 カナリアは16世紀からヨーロッパ各国で改良が重ねられ、日本
には江戸時代に渡来し、高級な鳥として大名などに愛でられたそう
で、葛飾北斎も浮世絵に描いている。盛んな改良という点からは、
今の小型犬ブームを感じさせられる。
 しかし、鈴を転がすような美声に心慰められるのは、物寂しいほ
ど静かな中にあってこそ。さまざまな音に囲まれる現代生活に合わ
なくなってきたのか、需要が減り、扱う業者も減ってきたらしい。
 ピーコを買い求めたのは駅前のペットショップで、犬猫専門店だ
と思い込んでいたのだが、去年の冬、店内を通り抜けしたら少しは
温かろう、と足を踏み入れたら、文鳥とピーコがいたのだ。しかし、
今はこの店も撤退してしまった。
 そこで、インターネットで調べて、近隣の店に電話をしまくり、
カナリア入手の有無を聞いたりして、経験に裏付けられた言葉と愛
想の良さから、ある店に予約注文した。春に生まれるのが市場に出
回るのは九月以降になると言う。
 だが、結局、その店からの購入とはならなかった。
 ピーコが死んだ時、なぜか一人の同僚のことが閃き、彼女に相談
したら、実は彼女の家の近くに小鳥の店があり、家の商売のお得意
さんで、彼女自身、その店で小鳥を買っていたことがある、という
話になり、「おばちゃんに聞いといたげる」
 ただ、私としてはインターネットのタウンページにも掲載してい
ない店なので、店のあり方を怪しむ気持ちがあり、購入に関しては
別の店に頼んであるからと断わった。
 ところが、おばちゃんは気にかけてくれていたらしく、同僚から
「入ったらしい」との連絡。「とりあえず見てみたら」。
 私は見た。そしてためらった。頼んであった店で買いたいという
思いが強かったせいかもしれないが、明らかに欠点を探り出す眼差
しになっている。わざわざ私のために取り寄せてくれたのに、無理
矢理、否定要素を探し出してきて、私はこの鳥を見捨てるのか。
 そう思ったら、肚が決まった。
 ピーコは雌だが華麗に鳴いてくれた。これは雄なので、一体、ど
んな美声を披露してくれるかと期待。
 でも、その前に名前を付けてやらねば。