みんな、飲んでるかい?!

 ボージョレー・ヌーボー解禁の日が来た。遠い異国の風習が、なぜか日
本に飛び火してお祭り騒ぎ。私も便乗してみようと思い立ったのはおとと
しであったか。
 折しも解禁日の直前、テレビのニュースで特集をしていた。そういう話
題がニュースにのぼるとはなんとも太平楽な世の中であるが、その時は、
ボージョレーのあとに「ヴィラージ」と付くものがよりコクがあって美味
しいという蘊蓄(うんちく)を心に刻むのに必死だった。
 一瓶買ってきて友達と空け、フランスに行った折、その話を知人にした。
彼らのボージョレー・ヌーボーの考え方は知りつつ、「ヴィラージ」と付
くのを選んだと言えば感心してもらえるかと思ったのだ。
 甘かった。感想はたった一言、「君は本物のワインを知らない」。
 フランス北西部。ブルターニュ地方はクレープと、それによく合う林檎
酒“シードル”が有名で、パリの友達への土産に考えていると言ったら、
「ならば、あの店で買わなければ意味がない」と、これまた知人はこだわ
りを見せ、私は謹んで彼に一任したが、それを飲んだパリジャンが味を褒
めたので、そうなったら、ワインに関する知人の意見に聞く耳持たないわ
けにはいかない。
 でも、私が11月のお祭り騒ぎから降りることにしたのは、アルコール
に弱い体質が一番の理由。弱いから量を飲めず、いろいろ飲み比べできな
いと、いつまで経っても人の評価を鵜呑みするしかない。つまり、心はい
つも、そこはかとなくおぼつかないまま。しかも、どんな美酒を飲んでも
心地よい酩酊よりも悪酔いに向かう私となれば、諦めもつこうというもの
である。
 ところが、今、私は、毎晩のように夕食後に、梅酒のロック割りを飲ん
でいる。甘くて口当たりがよく、これだと酔わない。まあ、酔うほど飲ん
でいないからではあるだろうが、そういえば、オランダ人の知人宅で“グ
ラン マルニエ”を食後酒として振る舞われた、あれも美味しかったなあ。
 もしかしたら、私は甘いリキュール類なら大丈夫なのかな。
 友達がくれた大きな一升瓶の梅酒。しかし、ちょびちょびであっても毎
晩飲んでいれば、終焉は来る。もうあと幾日も持ちそうもなく、残念であ
る。
 ところが、掃除をしていたら、棚の奥から酒瓶が2本出てきた。1本は
ロシア人からもらったロシア語表記のみの得体の知れない飲み物で、もう
1本は、いつ誰からもらったのか全然記憶にない空港免税店購入のコニャ
ック。
 でも、このタイミングで見つかったことを天の恵みと喜んで、次は、こ
の封を切るとしよう。 
 毒味の友がいないので、もちろん、安全を期してコニャックを。それも、
氷と水で薄めに薄めて。