アガサとタリウム

 久しぶりにアガサ・クリスティーの本を読んだ。本当は、他にも図書
館から借りている本があり、返却日を考えれば、そちらから片付けるべ
きなのだが、ちらっと最初の数ページを読むと、そのまま最後まで読ん
でしまった。
 彼女の作品にも出来の優劣はあるだろうが、どれも一定の水準はクリ
アしていて、決して期待を裏切られない。主人公達の賑やかなるお喋り
に眩惑されているうちに事件が解決し、ああ、有意義な暇つぶしになっ
たと思える。
 ただ、すべての手の内を公開して、さあ、犯人を当ててみよ、と読者
に挑戦するのではなく、本当に重要な情報は隠して最後のどんでん返し
に持ち込む手法なので、何冊か読み続けているうちに、そこのところが
不満になってくる。が、そうなった時は一旦離れ、次に再び“読む娯楽”
がほしくなったら、また、彼女に舞い戻ればよいのである。それができ
るぐらい多作であってくれたことをありがたく思う。
 今回読んだのは1961年作の『蒼ざめた馬』。しかし、登場人物の
一人である薬局の主人が、近頃は薬以外にも化粧品などを店に置かない
と売り上げがあがらないと愚痴を言うので、え、現代の話? と一瞬錯
覚しそうになった。
 けれども、もっと感心するのがアガサの毒物知識の正確さである。
 現に、この本を読んだとブログで言及したのが、母親をタリウムで殺
害しようとした女子高生だった。そうと知って、私はこの本を借りたの
だ。
 けれども、そういう反応を示したのは我が町では私一人だったようだ。
 デューク更家が、彼の本の中で、今までに一番感動した本の題名を書
いていて、それを借りた私は、その本に出会えたことが彼の本を読んだ
一番の成果であったと喜んだが、彼の信奉者でそういう行動に出た者は
皆無であるらしいと、これも、インターネットで本の貸し出し状況から
わかった。
 マイノリティの予測はしていたけれど、実は、仲間が一人もいないっ
てこと?
 でも、『女系家族』の原作は30名ほど返却待ちのようなので、ちょ
っと安堵した。