この寒さでは、さぞかしハゲの人は辛かろう、と感じるほどに寒い。
ウサギの毛のボレロ風ジャケットを買った。
丈は背中のまんなかあたりしかなく、袖は半袖。まさに「今年!」の
スタイルである。それを職場の女性に褒められた。
彼女は、一年ほど前、同僚に連れられ昼食の場に顔を出したが、雰囲
気が合わないらしく、すぐにメンバーからはずれ、私とは一度も言葉を
交わすことがなく今日まで来た。それが、廊下で出くわしたら、「暖か
そうですね」と声をかけてくれたのだ。
私の方からは「あ、髪が伸びたわねえ。可愛くなったわね」。
昼食を誰と食べるかは、ささやかながらも人生の大問題足り得る。
私は、たまたま招き入れられた所にそのまま定着した。
が、当初は二十人ほどもいたメンバーが、七人集まればよい方という
までに激減した。幾つかの部署が違う建物に分散し、物理的に参加が不
可能になった人達がごそっと抜けたことが一番の理由だ。
しかし、そうなってからも、一人、毎日やって来て、会話を牛耳って
いるのが、当初からのボス的人物。
ネタがないとなったら、うんと年下の旦那が話題にされる。でも、情
けない話や滑稽な話で座を沸かせる意図でも、度重なると、子供自慢に
通じる夫自慢と変わりない。彼女に子供がいたら、どんな話に付き合わ
されたことやら。
黙ってにこにこしていても、そういう気持ちは相手に通じるものであ
ったか。
いや、初めから、私の中の何かが彼女の癇に障っていたのだろう。
私が一番乗りで、ほかにまだ誰も来ていないと知ると、彼女は、忘れ
物をした振りをして、時間を潰しに出て行った。
そう言えば、誰かがひと言口火を切ると、すぐさまそれを引き取り、
自分の講談タイムにしてしまう彼女であるが、時折、「ねえ、ダレソレ
さん」と話しかけ、周囲に気配りしている風を装うのに、私に対してだ
けはそういうことがなかったし、私が何か言い出しても、さりげなく黙
殺された。居合わせた人達も、彼女に見習い、黙殺、右へ倣え。
それでも、メンバーを抜けた人から今日みたいに話しかけられたり、
昼食に誘われたりして、決して、ここだけが居場所じゃない。
いつか、彼女達に、輪を抜けた理由を聞こう。