第一印象は最悪

 会議の最終日に、受付けを頼まれた。
 指定された時間に余裕を持って到着すると、受付けテーブルに男性が
いる。業務の引き継ぎ説明をしてくれる人だな。
 ところが、初対面の彼は「今日は、本当はそちらの部局の日なんです
けど、うちからも一人手伝いを出しますので」と、いきなり妙に喧嘩腰。
厳格にセクト主義を貫きたい彼と、上の意見が違ったわけね。で、私に
八つ当たりかあ。
 ほどなく もう一人“こちら側”の受付けが到着すると、彼女とも口を
きくのは初めてだったが、彼から言われたままを伝えた。
 すると、彼女の部署は彼の部署と共に会議主催者だったので、最終日
の今日は金銭の受け渡しも発生せず、受付けは一人で充分だろうと予測
でき、まだ現われないもう一人の受付け担当者には、こちらに来ずに自
分の仕事をしてもらっていると言う。
「とにかく、あちらの部局の手伝いはお断わりましょう」
 まず私が午前中を引き受けた。ところが、どこが国際会議かと突っ込
みたくなるほど小規模で外国人も皆無に等しいのに、スイス人から明日
の飛行場までの交通手段を相談されたら、そこは“国際”と名が付くだ
けあり、パソコン設備は職場並み、いや、それ以上。調べた結果を伝え
たいのだが、会場を抜け出た彼が戻ってくるのはいつになるやら。もと
もと一日仕事のつもりでいたので、私が終日受付けを引き受けた。
 朝、惜しげもなく悪い第一印象で挑んできた件(くだん)の彼は、会
議関係者として会場と受付けをうろちょろしている。受付けテーブルに
ノートパソコンを開き、スイス人に説明している時、彼の気配を感じた
けれど、目を上げると、いない。
 だが、その後、彼が紙カップのコーヒーを持って受付けの椅子に座り、
うちの上司について問いかけてきた。普通の口調だったので、普通に答
えると、「へえ」と素直に感情を表わす。
 会場を飾った花を回収に来た花屋から、花は幾つかの花束にして主催
者に渡すと聞き、会議終了後、“こちら側”の担当者に了承を得て、一
つもらい、例の彼が視界をよぎったので、彼にも、一応、「一つ、もら
いますね」
 帰りかけた私を、彼が呼び止めた。
「よければ、残りの二つもどうですか」。
 なんだ、本当は、結構、いい奴なんだ。