感謝をテクニックする

 一度ぐらいは、誰でも、マーフィの法則を読んだことがあるのではな
いか。私も何冊か目を通したが、その中に、願望を短い言葉にまとめて
口にせよ、なんなら一語でもいい、いや、むしろ余計な動詞がないほう
が、「でも、どうせ叶いっこないと思うけど」というような意識を目覚
めさせなくてよい、というようなことが書いてあり、私は「感謝」とい
う言葉を選んだ。そして、毎日、その言葉を言うようになった。
 富、でも、豊かさ、でもいいのに、「感謝」という言葉を選んだ自分
自身を、そのことだけは秘かに、いや、そんな心にもない謙遜はやめよ
う、両手をいっぱいに広げ、声を大にして自慢したい気持ちで、その思
いはますます強まっている。
 というのも、夢を叶える生き方を説く人々は、必ず「感謝」をそこへ
の近道として語っているからだ。
 自分が本当にしたいことがみつかり、その道を行くと決意した。とこ
ろが、そう打ち明けると、なぜか、一番味方になってほしい人に猛烈に
反対される。
 試験に落ちた、失恋した、仕事を馘になった……。
 生きてれば、いやなことが我が身に降りかかってくるけれど、そのい
やな事、いやなことをした人にすら感謝せよ。
 普通は、感謝なんかできないという気持ちのままにいろいろ思い悩み、
先の見えないトンネルをようやく抜け出してから、ああいうことがあっ
たから、今の自分があるのだと感謝できる境地に至るのが順当なる道筋
である。
 しかし、私達はもう、そういう境地になれれば心が救われると先人か
ら経験を聞いて知っているので、不本意でも、全然そんな風に思えなく
ても、口先だけでいいから先に感謝してしまう方法を賢く利用できる。
この方法だと、本気で感謝したくなることを目的に脳が活動を開始して
くれるため、抵抗して抵抗してそうなるより、ぐんと時間が短縮される。
楽しいことと悲しいことを同時に考えられない脳の仕組みを利用するわ
けだ。
 人格者になるためなんかじゃない。単に、自分自身にとってそのほう
が益になるから感謝せよ、という考え方が、私は一番気に入った。
 今、少子化にも関わらず医者を目指す人が増えていて、その理由は、
この世から病気はなくならないし、医者の資格に年齢制限はなく、一生
食べるのに困らないからということらしいのだが、別にそこから始めて
も、そういう人達の中からも、名医は、多数、生まれるであろう。
 そういうことだ。