文通

 七日の立冬を境に、風が変わった。私は、化粧水で肌がひりひり。
 私が使っているのは、五十代の知り合いが三十代前半でも十分通用す
る肌をしているので、聞き出し、私も使うようになった化粧品だ。パラ
ペン不使用というのも気に入っている。
 しかし、これまで物足りないほど刺激がなかったとしても、肌がひり
つくのは今の現実。どうしたらいい。
 と、叔母から手紙が来て、来年の手帳が同封されていた。小さく印刷
されたURLを見つけ出し、入力したら、化粧品メーカーのものだった。
しかもパラペン不使用ですって。
 “渡りに船”とお試しセットを申し込み、叔母に出す寸前だった手紙を
書き換えた。
 前回の叔母からの手紙に、シミ対策の美容液のことが書いてあったの
で、よければ友達紹介セットを送る手配をしますが、と私は書いていた
のだ。
 手帳を同封してきただけの叔母の行為の方が遙かに上品だなあ。気に
なる人間なら、私のように、調べて、購入する行動にまで行き着くもの
なのだから。
 が、そう感嘆しておきながら、私は、気持ちが変わって、叔母の意向
を確かめずに、友達紹介セットを叔母宛に送ってくれるよう手配した。
そして、そうしたという文面に書き直したのだ。
 この叔母とは、文通を始めて六、七年になる。
 子供が小さいうちは、親は、我が子への身贔屓や、子を介して張り合
う気持ちが先に立ち、身内であっても、なかなかそこを突き抜けること
ができない。
 しかし、子供達は成人して、手を離れた。
 すると、叔母と私のあいだに、昔は想像もしなかった未来が実現され
ることになった。時の流れがくれた思いがけない贈り物だ。
 遠方に住み、滅多に会わない叔母が、夫婦で、私の住むパリにやって
きて、私がガイド役を務めるはずが、入院見舞いに来てもらう事態とな
ったのは申し訳なかったが、それをきっかけに、叔母から旅先の話など
が手紙で届くようになったのである。
 ところで、次は私が書く番なのに、なぜに叔母はフェイントしたのか。
まさか、この手帳が原因ではあるまい。祖父、すなわち叔母の父親の命
日がきのうだった、と書かれているので、そこに叔母の心を紐解くヒン
トが隠れているかも。
 同じ身内でも、立場の違いで温度差が出てしまうのは否めないものな
のだ。
 ちなみに、肌の、理由のわからぬ炎症は治まった。
 でも、どんなにいい化粧品でも、使い続けると肌が馴れてよくないと
も聞くし、その時用に別のメーカーを心づもりしておけるようになった
のは、ありがたい。