主婦の正解

 応募した企画が選ばれたら資金援助がなされるという女性の起業応援
コンテストに応募しようと思うのだが、共同参画者として名前を出して
もいいかと友から打診があった。
「なんで働きたいの」
 半年ほど前、仕事を探していると言われて、質問した。
「主人がその方が嬉しいみたいだから」
「レジのパートとか、探せば、いろいろあるわよ」
 そう言いつつ、そういう仕事を彼女が望んでいるのではないと、私は
見抜いている。
 子供が生まれるまでフリーで仕事していて、生活費は自分が払ってい
たという自負があり、主婦の再就職であっても、普通のパートは論外。
「だけど、自分が雇う立場だったら、同じ能力なら、やっぱり若い人を
方を雇いたくならない。それに、今は、若くても正社員になれない人が
多いのよ」
 私はずけずけ言う。
 なぜって、彼女の夫は高額所得者。
 自分の今を無視した夢が、現実にぶつかり頓挫しても、〃主婦〃に逃
げ込めば済む。
 案の定、彼女のプライドに見合う仕事はなかったようで、専業主婦で
ゆく覚悟がついただろうと思っていたら、そうだ、自分が雇う側になれ
ばいい、と閃いたらしい。
 その発想は評価するが、私は頼みを断った。
 彼女の語るビジネスには協力者が不可欠。なのに、当面は自分一人で
十分と考えているところに、夢物語の域を出ない甘さがある。チャレン
ジしたという彼女の自己満足のために、私は、名前は貸せない。
「もし採用されなかったら」
「それでもやるわ。もう準備は始めているの」
「頑張って。だけど、どうだろ、逃げ場があるうちは・・・」
 相変わらず疑い深い私。
 しばらくして、駄目だったと電話があった。
「じゃあ、次の一歩ね」
「やっぱり、逃げ場があると無理みたい」
 自覚できましたか。
 でも、そういう彼女を私は批難しない。
 家事は、専業なら完璧かと言うと、フルタイムで働いている奥さんの
方が手作り料理が多かったりして、そうとも言えない。
 専業主婦はそこに屈託するが、働く主婦は主婦で、後ろめたさのよう
なものから逃れられなかったりして、これが正解というのが存在しない
主婦の世界。
 だから、彼女達がいとおしくなる。
 逃げ場があって悩むのは卑怯と思っても、赦せてしまう。
 みんな、これでいいのか、と悩み続けている人達だから。
 悩む人は、他人に寛容。
 女の人の方が温かいのは、たった一つの競争原理に縛られた生き方か
らはずれているせいかも。