布ぞうりは買わせて

 今年も、籐のスリッパを、はかなく求めて、夏が逝こうとしている。
 駅前の文具店で購入した東南アジアのどこかの国の手工芸品。ひと夏
も持たない柔な作りだが、百パーセント籐素材の爽やかな履き心地を知
ってしまったら、中敷きだけが竹のスリッパでは代わりにならない。
 今度見つけたら絶対買い占めたいが、その文具店は閉店してしまい、
どうしたものか、と周りを見回していたら、通販カタログが、手作りの
布ぞうりを作ろう、と宣伝している。
「これだ」と感じるものの、作り方を知るためにカタログを購読するの
はねえ。
 いや、私と同じような考えの人はいるはず、と探したら、秘かなブー
ムなのか、図書館にも今年刊行の雑誌が数冊所蔵されている。
 まずは、予約がなかった過去の雑誌を借り出してきた。
 捨てるつもりの布の中から選んだのはベッドパッド。薄い中綿入りな
ので、履いた時、柔らかくてよさそうに思えたのだ。
 ところが、布はすんなり切れないし、どうしても幅が広くなる。
 でも、そこで止めたら、私の想像通りの履き心地かどうか確かめられ
ないと思い、ぞうりを編むところまで漕ぎ着けた。
 すると、布がふかふかでも、熟練者なら平気かもしれなくても、初心
者の私には手に負えなくて、ついに断念。
 吉本興業の漫画雑誌『コミックヨシモト』が、部数が伸びないため、
第七号で休刊になることが決まったそうだが、見切る早さは、さすが賢
者ではないか。
 私は、布を切った時点で別の布に変えていれば、それまでにかけた時
間が惜しいと突き進んで、一層時間を無駄にすることにはならなかった
ろうし、どーせ不器用なのよ、もう作らない、といきなり究極の結論に
飛躍することもなかっただろう。
 フランスの学校給食などで出るマッシュポテトやクスクスを人生の最
初に味わうと、なんてまずい食べ物なんだ、と間違って学ぶことにもな
りかねないのと同じで、何事も最初が肝腎。
 ただ、布ぞうりは、来年の夏に履きたい思いが強くて、図書館の予約
は取り消さず、今、最新の雑誌が、三冊、私の手元にある。
 新刊なら裏技的な作り方が載っているかも、と期待したのだ。
 そういうことはありませんでした。そりゃそうよね。ぞうりはぞうり
だもの。
 フランス人の友が、日本では何でも売られている、見なければ欲しい
と思うことがない物まで売られている、と感心していたけれど、私も同
感。
 布ぞうりも、もう、どこかで売られているかなあ。