思ったことを言う緊張

「親友」という言葉が頭に浮かんだことで、日頃から漠然と気になって
いたことを考えた。
 深刻なことを打ち明け、相談するのは親友のように思えるけれど、実
際には、そうでない相手を選ぶことも結構あるのではないか、という疑
問である。
 公務員の職場に契約社員で勤めていた友が、職場の覇気のなさに嫌気
がさし、また、年齢的にこれが正社員になれる最後のチャンスだと考え
て、仕事を辞め、職探しを始めた。その彼女の口から、登録した派遣会
社の対応やら紹介された会社の不満が述べられる。しかし、肝腎の正社
員の職探しの話が出ないなあ、と気がつくまでに、馬鹿な私は随分時間
がかかった。
 が、気づいてしまえば、不採用通知ばかり戻ってきたら落ち込みそう
なので、言葉では正社員と言いつつ、無意識にその道を避けているので
はないか、と想像がつく。
 それをわざわざ指摘するのがよいかどうか迷ったものの、私は言った。
 だって、たとえ何十通履歴書が返されても、その数を世間に公表する
わけでもないなら、恥じることはないし、チャレンジして現実を見極め
なくては、晴朗な気持ちで次に進めない。
 彼女は、どうせ無理だと諦めている自分自身を認め、まずは派遣で収
入を確保して精神の安定を得ることにした。
 そして、新しい職場が決まると、連絡が途絶えた。
 ま、当然だろう、と受け止めていたら、久しぶりにメールが来て、本
当に雑用ばかりの仕事で、情けなくなる、とのこと。
 自分には雑用に思えても、必要だから給料をもらえているんじゃない
の、それに、平行して次の仕事を探す予定だったでしょう、と書いたら、
ありがとう、いつも目から鱗の意見で元気が出た、と返事が返ってきて、
私が、痛いことばかり言う嫌な奴だと思われていたわけではないらしい
とわかって安堵だったが、相談されたり意見を求められて、思ったこと
を言ったら、そこで関係が終わるかも、でも、そうなっても仕方がない
と肚を括って臨むのは、そういう結果にならないとしても、事前の緊張
感を、私は好きになることができない。
 緊張感に襲われるのは、親友未満の相手、というところにポイントが
ある。
 要は、親友でもないのに、なんでそんな重たい相談なのよ、というこ
とだ。
 しかし、深刻な相談事ほど、身近な親きょうだいよりは親友を選びた
くなるように、親友よりも、ただの友達、あるいは知り合いの方が気が
楽になる場合もある、ということなのかもしれない。