適正価格

 買い物に行く時、キャリーをよく使う。中が軽い時は前後の車輪の幅
を狭くして後ろ手に引き、五キロのお米を二袋買って帰るような時は、
乳母車を押すような形にできる両用タイプである。
 しかし、開閉の限度を越えて使用したのか。買い換え時が到来した。
 母が開閉に手こずっていたので、今度はそれがもっと簡単にできるの
を探したら、同じメーカー製で、バッグの部分が回転して椅子になタイ
プを見つけた。
 杖代わりに押すのが第一目的。疲れたら簡易の椅子になるところはメ
ーカーの独自力。ターゲットは必然的に老人となり、正式名称は「歩行
補助車」。
 でも、そんなことは気にならない。
 バッグが椅子になる構造上、以前のよりバッグの容積が少なくなるの
も良しとしよう。
 ただ、色がねえ・・・。
 デパートで現物を見て、〃ババ色〃と形容したい色に悩み、カタログ
に載っている別の色の方がまだましかも、と考えて日が経ち、現物を確
かめられないけれど、別の色にしようと決心がついた日の買い物帰りに、
その手の歩行補助車が外に陳列されているのが目に飛び込んできた。
 そこは買い物の行き帰りによく通る場所で、視界に入っていなかった
わけがない。なのに、これまで一度も意識にのぼることがなかったとは
呆れ返るではないか。
 ぎりぎりセーフで認識できたのだから、よかったのよ、とポジティブ
思考に切り替えて自分で自分を慰めてから、店に入った。
 私が買いたいタイプが中にあれば、色だけ確かめさせてもらおう。
 と言うのも、デパートなら、経営統合記念とかで、五パーセント引き
で買えるチケットが使えるからだ。
 すると、店に在庫はないが、取扱商品はすべて一割引きだし、介護認
定のレベルによってはさらに値引きできると言われて、
「なんで、そんなに安くできるんですか」
 思わず詰め寄る私。
 だって、故なき値引きは不安じゃない。
 すると、担当者は黙り込み、これはやっぱりバッタもんか、その類い
の怪しいものなんだわ、と私の中で疑いがむくむく膨れあがる。
 だが、分厚い福祉用具カタログをもらって帰り、インターネットで調
べたら信用できそうだし、何より近所なので、そこで頼んだ。
 あとから友達に介護事業の大手だと教えられたこともあり、正当に安
く買えたことを素直に喜んだものの、今でもあれこれ考えずにはいられ
ない。
 一律、一割引にしてくれる裏には何があるのか、と。