子供は見ている

 十月二十六日の亀田興毅選手の謝罪会見で、質問者が匿名なのはフェ
アじゃないと思い、そう書いたら、テレビ朝日井口成人という、記者
ではなくてレポーターだったんですって。
 先陣を切ってやたら挑発的に質問する人がいて、そこへ、自分は一方
的に断罪はしないよ、君の気持ちを汲む度量もあるよと物わかりの良い
大人を装って横から割り込み、あとを全部仕切った人がいたけれど、そ
れが井口という人だったわけね。
 で、インターネットを見ると、結構な数の書き込みもあり、えーっ、
私が自己紹介を聞き逃しただけだったの、と首を捻っていたら、二十九
日の朝日新聞天声人語で「お父さんは弱い対戦相手を選び、息子たち
に勝ち星を与え続けたと聞く。」の一文を見て、私はずっこけた。
 記者の基本は事実確認。それも、仕事上、私達一般人のレベルを超え
た調査が可能だからこそ、それが記者本能ともなり、どんな軽い読み物
でも、書くとなったらその性(さが)が出て当然だろうに、記事でない
なら、誰が言ったか特定できない世間の風説を論拠にしてもよいと判断
した。そこに私は唖然とさせられたのだ。
 ま、テレビ朝日朝日新聞。同じ企業グループと思えば、妙に納得が
いったが。
 今回、ボクシングに興味のない私に野次馬根性が芽生えたのは、十一
日の世界フライ級タイトルマッチで、無様に負けてすごすご引き上げる
弟の大毅選手に対し、〃切腹コール〃が起こり、かつ「切腹しないんで
すか」と問う記者もいたと、漫才のキングコングの西野のブログで知っ
たからだ。
 試合前、大毅選手が「負けたら切腹」と豪語した。それが間違ってい
るが、負けた彼にその言葉をぶつけた大人も間違っている。やられたら
やり返せばいいと子供達が学ぶことになる、というようなことが書かれ
ていて、その場にいたら、実際に言うかどうかは別にして、ひやかし気
分で私も〃やじる側〃に回っていたかも、という想像を完全に否定でき
ないだけに、心の中で秘かにひやり。
 そうなったかもしれない場面に居合わせなかったのは単なるラッキー
だが、「そういう行為はレベルが低い」ときっぱり諫(いさ)める意見
を今聞けたおかげで、今後、そういう事態に遭遇しても、浅はかな行為
に出るのが防げたのは感謝のラッキー。
 馬鹿なことを言ったり、したりするお笑いの人が芯から馬鹿、と思っ
たら大間違い。
 そして、子供は、親が「言う」ようにはならないが、「する」ように
はなるのである。