男雛と女雛の位置

 今日はお雛様。
 今年は、母が、お雛様用の菓子袋に印刷された、まるで「これだけが
正解です」的人形の写真や絵にも惑わされず、関西風に男雛と女雛を飾
ってくれて嬉しいなあ。
 関西風は伝統的。伝統的とは、自分が人形そのものになったと想定し
た時、男雛を女雛の左側にくるように配置する方法で、左が位の高い人
の位置となる『左上位』の日本の伝統による。
 が、今や、右上位が圧倒的。昭和天皇が右上位の国際儀礼を取り入れ
られ、関東の人形業界がそれに倣って、そうなったのだが、さすがは反
骨精神豊かな関西、伝統的な行事に国際儀礼なんて関係ねー、とばかり
に伝統を死守している----と言いたいところだが、店では二つの並べ方
が混在。どちらかというと現代風が多いのは、関東出身の客へのアピー
ルか、関東の人形製作会社が多いせいか。その上、菓子袋などに印刷の
人形も現代風で統一されてしまえば、もう、関西地方でも、いつ、旧来
の飾り方を間違っていると断ずる人が出てきてもおかしくない状況で、
現に、我が母親は、去年、なんの疑いもなく逆に配置して、人は、記憶
より、最新の情報に無意識に感化されると見せつけてくれたのだった。
いくら伝統的な事は伝統を重んじたくても、この分では、そういう私は
遠からず絶滅種となってしまうのかも。
 雛祭りが巡ってくるたび、こんな風に、私の最大の関心は男雛と女雛
の位置の攻防に向かうのだったが、一年に一度どころではない左と右の
攻防と言えば、エスカレーター。
 関西は、いち早く、国際的な「Keep left」の標準を取り入れたが、
関東は左に立って右を空ける流儀を手放す気はさらさらないらしく、お
雛様で進取の気風を見せたのに? と真意を問いただしたいと思ってい
たら、東京ルールは「追い越しは右側」が理由だと知って、うーん・・。
 もしスキーで左側から追い越されたらと想像すると、確かに怖い。
 だけど。
 エスカレーターだけ国際的に特別、ということでいいんじゃないの。
 いや。どうせなら、国際的に特別な理由を突き止めてから判断すべき
だろう。
 ただ、それで知的好奇心は満たせても、どちらかに一本化させる威力
や権限に結びつかないことを思うと、私は、無駄な努力は止めて、エレ
ベーターで人々の立ち位置から出身地を夢想し、ささやかなバトルがあ
ると、いずれは人口比で決着がつくのかなあ、と自問するのであった。