質より量か、量より質か

 今日は母の日だったのね。
 フランスにいた時、特にお世話になっている知人のおかあさんに、さ
さやかながら日本からのプレゼントを渡したら、きょとんとされて、そ
れというもの、フランスの母の日は五月の最後の日曜日だったからのだ
が、私は、それを機に、日本とフランスの母の日ルールを頭に叩き込む
代わりに、思い切りよく、覚えない道を選んだ。
 そうしないと、月まで間違えそうだもの。
 でも、その日が近づくと、母の日セール一色になるので、記憶できな
いために困ることはない。
 先日、母にプレゼントした日傘は、母の日のプレゼントみたいになっ
たけれど、たまたまセール期間で、そういう包装になっただけのことで、
物心ついてからずっと母の日にプレゼントをした記憶はないし、今年か
ら急に慣例にしたい気もなく、帰ると、すぐに渡した。四日前のことに
なる。
 なぜ、日傘を、しかも、この時期に思いついたかというと、母が「バ
ーゲンになったら、日傘を買ォ」と言ったからだ。
 母は、服でもかばんでも、安くていいから、数ほしいタイプで、「同
じ物ばかり着ていたら笑われる」と言うのだが、遠回しに批難されてい
ることになる私は、これが、今まで一度も笑われた経験はないのよねえ。
 それはともかく、母は、服を買う発想で、量販店で日傘を買った。
 が、日傘はそうそう買い換える物ではない。ために、値段に見合って、
いまいち垢抜けない品質に嫌気が差してきたのではないか。
 夏のバーゲンを待って買うにしても、主婦の慎ましさもあり、似たよ
うなレベルのを買うんだろうな、と思うと、居候になっている身からの
お礼を込めて、プレゼントすることを思いついた次第。
 カーテンやテーブルのように毎日目にする物がそれなりのレベルでな
いと、なんとなく美意識が苛立ってくるのと同じで、結局買い直すのな
ら、最初からいい物を買った方が得、という発想が有効な場合もあると
わかってくれたら嬉しいのだが。
 母は、
「え。なんで今頃? なんのお祝い?」
 素直に喜ぶより先にそんなことを言った。
 私は私で、
「使い始めるのが遅れたら、それだけ使える期間が短くなるだけでしょ」
 減らず口のようなことを言う。
 でも本音。
 どうせいる物を、買おうかどうしようか迷う時は、いつもそう考える
私なのだ。
 誰かに言う場合は、心がタフな相手を選ぶ必要があるけれど。
 しかし、さすが我が母親。
 彼女は言いました。
「じゃあ、長生きしよ」