デパートの男性店員

 サングラスを買った。
 デパート一階のファッション売り場で、購入してもよさそうなのを物
色しておいてから、せっかくだから眼鏡売り場も見ておこうかな、と売
り場に行くと、男性店員の中で一番近くにいたロマンスグレー風の人が、
真っ正面から歩み寄る。
 冷やかし客なら「回れ右」となる第一関門だろうが、どこかでサング
ラスを買うつもりの私は動じることなく、
「一階で売っているサングラスと何が違うんですか」
 商品の仕入れルートも違うが、客の骨格に合わせて微調整まで対応す
るか否かが大きく違う、と説明してくれる物腰が好感度だったので、い
ざなわれるまま、サングラスコーナーへ。
 美しく陳列されたサングラスを見つつ、夏の日差しから目を守りたい
のだが、可視光線透過度が低すぎると瞳孔が開きっぱなしで目に良くな
いとも聞いた、と私は切り出した。
 付け焼き刃の知識。
 が、私が機能を重視したサングラス選びを求めていると理解した彼は、
機能にまつわる専門知識を私がわかるように話してくれ、私にとって
「話し得」のひとときになったが、やがて、おもむろに一本のサングラ
スが差し出された。
 私の顔立ちと雰囲気から選んでみたそうだが、悪くない。
 十年間使い続けられるなら、高くても、と清水の舞台から飛び降りる
覚悟をしていたのに、そこまでの気合いは不要のブランド物、というの
も嬉しい。
 一階の売り場の商品は、盗難防止装置が邪魔で、かけ心地が不明瞭だ
し、客が試しがけする度、その厚みの分だけサングラスに不要な力がか
かるし、大勢の人に触られまくられていると思うと、ここで買ってもい
い気持ちになってきた。
 念のため、さらに二、三点選んで、かけた時の印象の違いを専門家の
視点から語ってもらい、結局、一番最初に勧められたのに決めた。
 いよいよ、私の顔に合わせた微調整だが、
「傷はないですよね」
 軽い気持ちで確かめたら、仔細に調べて、気づかないぐらい小さな傷
が一箇所見つかったと告げられると、急がない私は「じゃあ、待ちます」。
 三日ほどで新品を取り寄せてくれたが、私が、すぐには取りに行けな
かった。
 それにしても、サングラスの柄を何度か調整してくれるのを、椅子に
座って待つのは、ちょっといい気分だったなあ。
 店員の慇懃無礼さが渋い高級ホストっぽくて、病みつきになりかけた
わけだが、もう当分はサングラスを買う必要もないと思うと、ちょっと
・・・いや、かなり残念。