母からカセットデッキが壊れたので買ってきてくれと言われて、私は
困惑した。
これまでだったら、買う店も、頼む店員も決まっていた。
ところが、東京資本の店が進出してきたせいで、潰れた。
じゃあ、最後の大阪資本の店に行くとしますか。
ポイントカードなどという安易な発想のサービスを広めた東京資本と
は、折り合いが悪いのだ。
だって、あした死ぬかもしれないのに、次回の買い物でポイント分値
引きする約束なんて、意味ないじゃん。
大切なのは、今この時。
それがわからないことが、わからない。
だが、せっかくなので、先に敵陣偵察してみた。
広大な店内に、客より多い、イヤホンをつけた店員達。
売り場に辿り着くと、「何かあったら声をかけてください」と言って、
持ち場の店員が遠ざかりかける。
それを私は引き留めた。
あなたの専門知識で、私の予備知識の足りないところを補ってよ。
できるわよね?
一瞬不安になるのは、こういう店でMacが売られていても、私より
商品知識のない店員が配置されていたりして、信用し切れないところが
あるからだ。
さて、説明を聞いて二機種に的を絞ると、「○○さんだったら、どち
らにします」とネームプレートの名で呼び、意見を請うた。
「その理由は?」
あとで、そんな風に自分の意見を聞いてもらえて嬉しかった、と言わ
れたけれど、普通の客は、そういう質問はしないのだろうか。
それはさておき、買う機種を決定すると、「じゃあ、あの店と値段を
比べて、安かったら、戻ってきます」と私は言った。
ポイントカードで勝負する東京流は、そういう身も蓋もない消費行動
を、消費者自身が口にしていい雰囲気を醸し出している。
だが、買い物は気迫。
私は、店にとっても得になることをもちかけ、この店員相手に値引き
交渉を挑んでみた。
すると、
「ちょっと待ってください。上の者と相談してきます」
即座の反応。
それが気に入って、私は、この店員から、その場で買うことに決めた。
「今度来た時も声をかけるから、よろしくね」
お抱えのご用聞きのような存在を作っておくのは私にとって都合がい
いが、店員にとっても悪くないはず。
ところが、
「僕、いつまでいるかわからないんです。派遣なんです・・・」
聞けば、半分以上、派遣社員とのこと。
派遣に正社員と同等の商品知識を求めるのは酷だと思うと、社長さん、
全員正社員で、客に安心させてよ、と訴えたくなった。