やきもちが損な理由

 スーパーマーケットで買い物をしていたら、携帯電話が鳴った。
 東京に住むフランス人だ。
 電話に出ると、私がパリにいた頃、私とも面識があったフランス人が
いとこと弟の三人で旅行に来ていて、「今、鎌倉。これからみんなで湘
南に行く」
 知人が電話に出たので、何年ぶりかの会話となったが、スーパーの館
内アナウンスって、なんてうるさいの。
 急いで、次の階、それも駄目なら次の階、と移動するのだが、どこに
行っても、その階ならではの騒音が待ち受けている。
 まともに会話できずに終わった。
 申し訳なくて、帰宅後すぐに電話したが、留守番電話に切り替わって
いる。
 夕方、再度、試してみた。
 それで繋がらなければ、そういうことだと諦めよう。
 と、「今、喫茶店に入ったところ」。
 私はわけを話して、知人に代わってほしいと言った。
 すると、注文をしている最中で忙しそう、と訳のわからない返答。
 それを押して電話を代わってもらったら、知人が京都や奈良や広島に
も行くと話し出し、「会いたいわねえ」と私。
「じゃあ、京都に着いたら、電話する」
 切る前に電話を受け取った携帯の持ち主は、わざわざ日本語で私に言
った。
「別に無理に会わなくてもいいよ」
「大丈夫。気が向かなかったら断るから」
 真っ赤な嘘。
 京都ほどの観光地を、どこを訪れたいか、下調べもせずやって来るよ
うな大雑把な旅行者だと知ってしまっては、再会を兼ねて、ガイドして、
良い思い出を持って帰ってもらいたいじゃない。
 なんで阻止したがるかなあ。
 その知人は結婚して、子供も生まれたと、あなた自身が、前に話して
くれている。
 それに、あなたと私は単なる友達。
 それでも、やきもち・・・は狭量でしょう。
 もっと切実な男女の三角関係の場合でも、恋のライバルと彼女を会わ
せなければ自分が勝てると、二人の逢瀬を巧みに妨害したところで、そ
れが運命の意図でないなら、二人はどこかで出くわし、結ばれる。ある
いは、そうならなくても、彼女はあなたとは結ばれない。
 運命は、人間の小細工が通じるようなちょろいものではないのだ。
 なので、自分のつらい気持ちはそれはそれとして、それを理由に人の
幸せを邪魔立てしないし、頼まれれば、不本意でも力を貸す。
 そういう善なる態度でいれば、必ず、最良の未来に恵まれる。
 早くそう気づけるといいね。
 手始めは、あなたの思い通りにならない私。
 楽しんでくるね。