半田そうめん

 キンモクセイは散ったが、半袖と長袖が共存できる穏やかな季節。
 それでも夏が終わったのは間違いないからだろう。スーパーマーケッ
トの在庫処分品のワゴンに、冷や麦やそうめんなどの乾麺が半額で並ん
だ。
 麺は「食」の必需品。
 賞味期限を見ると、商品によって違うが、最短でも来年六月。
 一応、今はやりの改竄(かいざん)があった場合を考えてみた。意図
的に先延ばしした期限が刻印されているとしたら、ということだ。
 これから木枯らしが吹くまでに食べる機会はありそうだし、冬が来て
中断したとしても、五月になれば夏の陽気で、毎日のように食べるので
はないか。
 寒天やゼリーの素を賞味期限が切れても平気で使っていることを思え
ば、気になるなら、刻印された期限までに食べ切ればいい。
 納得すると、すごいお買い得に思えてきた。
 他に客がいないのが不安になるが、閑散とした昼下がりなので、当た
り前かも。
 夏。子持ちの知人のほっそりした体型を羨ましがったら、「暑くて、
つい、そうめんだけで済ませたくならない?」と聞かれ、どんなに暑く
てもそんな気にはならない私が返事に迷っていると、別の知人が「そう
めんは、すぐおなかが空きそうで、食べるとしても冷や麦。そうめんは
今年はまだ一度も食べていない」と告白し、私もまさしくそのとおり。
 そんな会話を思い出しつつ、ざるうどんと冷や麦を選んでいると、お
ばさんが一人近づいてきた。
 一人の不安は喜びに変わっていたので、邪魔される感じが気に入らず、
私はその場を動かなかった。
 が、「ごめんなさいね」
 口に出して言われたら、横に寄るしかない。
 おばさんは、すばやく一つ二つ選ぶと、立ち去る前に、
「これ、美味しいんですよね」
 と指差して言った。
「徳島のそうめんなんだけど、普通のそうめんより太いのよね」
 あとに残された私は興味を惹かれ、商品を手に取ると、半額になって
も他の商品の二倍ほど。夏に定価であれば絶対買わないだろうと思うと、
食べてみたくなった。
 半田そうめん。
 とりあえず三袋買った。
 きのうのことだ。
 今日もまだ残っていたら買い増そうと思っていたら、綺麗に売り切れ。
 自分は買わないのに、こういうそうめんもあると教えてくれたおばさ
ん。
 ありがとうございました。
 ワゴンの前に陣取ったちょっぴりの〃いけず〃、ごめんなさい。
 ところで、自分では買わないのに、唐突に私に話しかけて勧めてくれ
たのはなぜですか。