柿は富有柿。りんごは紅玉

 スーパーマーケットの前に、露店が出ている。
 スーパーの中と外で客の奪い合いになりそうで、普段から疑問だった
が、人が集まっているので近づいてみた。
 ザルに盛られた梨が美味しそう。
 値段も安い。
 俄然、買う気になったら、一人きりの店員は客の対応に追われている。
 先にスーパーで買い物をすることにして、出てくると、露店は客足が
途絶え、店員が人待ち顔。
 悠々と近づき、梨を二盛所望した。「選んでください」
 スーパーで一個売りの林檎を吟味して買ったつもりが、中が腐ってい
て返品してもらうようなことがある私は、正しい選び方を知らないこと
に気がついたのだ。店員の方がよっぽど目利きであろう。
 美味しかったので、別の日にも買いに行くと、また、客がいないので、
なぜ露店なのか、聞いてみた。
 仕入れはスーパーがしているが、ラップで包装して売ったりすると利
益が上がらないような小ぶりのものを露店で売っているそうな。
 私は一人で食べ切りたいので、小さくて安いのは大歓迎。
 梨も、美味しい二十世紀だし。
 さて、何度目かの日。店員が私を見て、「ああ・・・。梨はもう入っ
てこないと思います」
 季節が進み、梨は梨でも洋梨と、みかんに柿。
「柿ねえ。好きだけど、これはあんまり美味しいと思わないんですよね」
と私。
 平べったい形で、スーパーでよく見かける柿である。
「柿は、やっぱり富有柿が美味しいですよね。季節はもう少し先になり
ます。でも、これは種がないので人気なんです」
 ええっ。柿は種が大きいのに、それでも種は嫌だってかい。味が落ち
ても、種なしがいいって?
 私は林檎についても意見を述べてみた。「この頃のは美味しくない」。
「僕もそう思います」
 店員が同意してくれて、きゃー、嬉しい。
 私は、美味しいと感じない自分の舌に自信がなくなっていたのだ。
「ふじや紅玉は、もうほとんど出回りません。作っている農家も減って
います。硬いと言うので、お年寄りに売れないんです」
 で、ぼやけた味が林檎の世界を席巻してしまったわけなのか。   
 だけど、五人に一人は六十五歳以上の日本で、老人たちは、そんなに、
わしわし林檎を食べて、最大の顧客層なのかなあ。
 柔らかい物ばかり食べて育った若い世代も、老人たちとグルなんじゃ
あないの。
 種なしでも、果肉が柔らかくてもいい。
 味は妥協できないと思い、以前を懐かしむ私は、果物の好みに関して
も〃変わり者〃に突入かしらん。