「ツキ」は、タイミング

 本の中で、「青菜に塩」という諺に出くわした。
 何、それ。
 取り上げた諺にまつわって話が展開される構成なので、念のため、諺
の意味も載っている。 
 だが、刃先が鋭利なコレは包丁と呼び、野菜や魚や肉を切る、と説明
されても、初めて見る場合なら、不安で自分一人では触れないだろう、
そんな感じの戸惑いに私は襲われた。
 ところが、平行して読んでいた別の本の一文に、それが出てきた。
 著者は明治生まれなので、当時は、その諺がもっと普通だった可能性
はありそうだ。
 何にせよ、具体的な使われ方を知りたかった私は、望みが叶って、ラ
ッキー。
 そして、レッグマジックである。
 店頭に置かれた実物に小学生が乗っているのを見て、好奇心から私も
試してみた。すると、左右に足が開く際、からだがふらつき、腹筋のな
さが暴露される。このまま歳を取ってはヤバい、と思うと、冷やかしの
つもりが、これで鍛えて、芯のしっかりしたからだを目指したくなる。
 インターネットで調べたりして数日後、売り場に行くと、値札は「現
品限り、五千円値引き」。なんでも、その朝、最後のそれを売り切るこ
とが決まったのだとか。
 定価でいいから新品の方がいいんだけどな。でも、自分で組み立てる
のは面倒かな。
 私が買いに行くと現品値下げのタイミングになっていた、というのは、
私にその値段で買いなさい、という天からのメッセージなのだろうか。
 私は、流れに乗ることにした。
 ツイている時はタイミングがいい。タイミングよく流れに乗ると、ま
すますツキがよくなる。ツキの大原則だ。
 ただ、寝ているあいだに心に閃いた考えを実行すると、そうしてよか
った結果になる、というのは、私だけの個人的原則かも。
 その閃きが久しぶりに訪れたので、啓示に従い、一年ほど無沙汰して
いる友に電話した。
 友は、私を来週コレコレに誘いたかったが、そんなことで呼び出すの
はどうかとためらっていたところで、電話をくれてよかった、と言う。
 自分は何もしなくても、望む方向に現実が動くのは、日頃の行ないが
よい証拠。そう言うと、
「じゃあ、私はツイていたんだ」
 友が笑う。
 なるほど、今回ばかりは、私の上をいくツキに恵まれた彼女に誘導さ
れて、私の方が「飛んで火に入る夏の虫」になったってことね。
 それでも、会って話す方が電話で話すだけより数倍楽しいから、私は、
私「も」やっぱりツイていた、とおめでたく考えることにした。