ほんと、チャンスの女神に後ろ髪はない

 晴れた朝は、七時を過ぎると、朝日がオープンキッチンに向かって一
直線に入り込んでくる。
 太陽の位置が低くなったのだ。
 朝日を浴びつつ朝食を準備し、食べて、新聞を読む。
 太陽から逃げたい真夏には、あり得ない幸せである。
 寒くなり、冷凍しておいた玄米ご飯を一人鍋で煮る「半おじや風」を
朝食にし始めた。
 冷蔵庫にあるネギや白菜などの野菜を加え、卵も溶いて回し入れるの
で、栄養のバランスは取れていると思うが、野菜を切った切りくずをビ
ニール袋に入れて冷凍し、ある程度溜まったら、洗って、水から煮出し、
汁だけ漉して野菜スープを作るエコ・レシピを知ると、水より野菜スー
プを使えばさらに健康に良さそうで、早速実行。
 冷凍庫から、小分けにした野菜スープの容器を取り出した初めての朝。
「うわあっ」。
 蓋の裏一面に張った霜が、一つ一つ、白い小さなクリスマスツリーみ
たいにとんがって、朝日に照らされ、きらきら。なんて美しいんだろう。
 食後、鍋でコーヒー用の湯を沸かした際は、鍋の底にぶくぶく気泡が
現われ、剥がれて上にあがってくる、その気泡の大きさが決して一様で
ないことに感心。
 霜は、なぜか、それ以降、あれほど見事なのにお目にかかれず残念だ
が、朝日に向かって深呼吸し、ああ幸せ、と感じられているからOKな
んだ。
 だって、朝は一日の始まり。
 良い気分で始められたら、良い一日になりそうじゃない。
 もちろん、実際にはそうならないこともあるだろう。でも、自分次第
が通用する家の中で、心を日本(にほん)晴れにまで高めておくなら、
万一、不快に出くわしたとしても、きっと、さりげなく遠ざかれる。 
 ・・・はずだったんだけど。
 帰りの電車で、空いたスペースに腰を下ろした途端、キョーレツなニ
ンニクの匂いに襲われた。
 私の左は、目を閉じた男性。右側は、資料を黙読中の男性。匂いの元
は、一体どっちだ。
 絶対、私ではない。なのに、もしや、とまずは我が身を疑ってしまう
意味不明の条件反射。
 ほどなく下車する人があり、向かいの長いシートの端が、二人分空い
た。これぞ、天の助け。すわ、移動すべし。
 が、あからさまに移動すると、〃匂いの元〃が気を悪くするのではな
いかと、これまた意味不明に逡巡しているうちに、ほかの人に座られ、
結局、降りるまで悪臭攻めに。
 手放しでツイているのではない「半ツキ」状態から完璧なツキに持ち
込む強引な逞しさが、どうやら、私の課題らしい。