金魚の卵が孵りました

 夏の終わりに金魚掬いで入手した二匹に子供が生まれた。
 一匹がもう一匹を執拗に追いかけ回し、「仲がよろしいですこと」と
やっかみ半分に思っていたら、そんな風にして雌の産卵を促し、そこに
雄が精子を振りかけて受精するそうな。
 翌朝、普段と違う粘り気のある泡が水面に浮く。
 そういうことがあった時は、水の中の酸素が足りなくなったんだと急
いで水を入れ替えたので、知らずに卵を洗い流していたらしい。
 今回は、朝日が水槽の底に一ミリほどの透明な卵を照らしたので、産
卵したとわかった。
「わあ。綺麗」
 親をバケツに移動させ、卵の孵化を見守る態勢になる。
 産卵から孵化まで約一週間と目安が付いていれば、おおらかな気持ち
で待てるというもの。インターネットのおかげである。
 生まれて三日間ほどは底でじっとして餌は不要だが、泳ぎ出したら、
餌がいる。近くのスーパーで見つからず、彼らの命もここまでか、と覚
悟を決めつつデパートの屋上に行ったら、乾燥ミジンコを売っている。
 が、こんな真冬に孵化したことに驚かれたし、水槽には水だけ、それ
も二、三日に一回、アルカリイオン水を総入れ替えするという飼育法は、
金魚にとって苛酷な環境だとも指摘された。
「よっぽど飼ってる所が暖かかったんですかねえ。でも、これから水が
冷たくなるし、そういう飼い方だと、間引くどころか、一匹も残らない
かも」
 勧められるままに金魚藻と砂利石を買い、水槽はそこが売っているの
は高価なので、スーパーの台所用品コーナーで、水槽の代わりになりそ
うなのを購入。それに親を入れた。
 初め、「命は大切にしないと」と言っていた母は、「生きてる親の方
が大切」と言い出し、それが標準的な意見であるだろう。すると、生ま
れても育たない、あるいはせっかく育っても間引かれる金魚の未来を思
うにつけ、ちょっと切ない気持ちになる。ペット・ブームの陰で殺され
る犬や猫の半端でない数が報じられるが、金魚が話題にならないのは、
魚だとそんなに罪悪感がないってことかなあ。
「愛は責任」。
 昔だったら考えもしなかったことを思うようになっている私は、今度、
金魚が産卵したら、水を総入れ替えして、卵の段階で抹殺してしまおう
と思う。
 それで罪悪感が軽減するというのもおかしな話だが。
 ところで、金魚の卵が孵るほど暖かいらしい我が家だというのに、私
は風邪を引いた。
 三連休で医者は休み。初めて三連休を迷惑に感じた。