風邪じゃないけど

 まだ本調子じゃないなあ。
 書こうとしても、どうも思考が分散して、集中できない。
 夜中に咳き込むのは、一回か二回ぐらいに治まってきたんだけどなあ。
 それに、医者にもらった薬も、きのうで切れた。
 もっとも、気管支を拡張する貼り薬は、二日で勝手に止めたのだが。
 匂いの記憶。
 この匂い、なんか記憶にあるなあ、と思っても、いつの、どんな匂い
だったか、特定できることは滅多にない。
 それが今回、あれ、と思い、記憶を辿ったら、気管支拡張の貼り薬を
貼った時、鼻の奥にひたひた広がる冷たい匂いだと気がついた。
 懐かしい、ことなどなくて、むしろ、あ、嫌。
 咳がひどいと体力を消耗する。咳を防ぐには気管支を拡張するのが一
番。理屈はわかっても、薬のせいの人工的な匂いだと思うと、もう二日
も貼ったのだから、これからは薬なしで回復できるんじゃない、と言う
か、そうなるのだ、と自分のからだを励ます鬼コーチとなり、薬を止め
てしまったのである。
 今回は、医者が、このまま放置した場合の可能性に挙げた三つの中に
風邪が入っていなくて、ちょっと怪訝な気がしたけれど、確かに、これ
まで馴染みの症状とはことごとく様子が違った。
 運のいいことに、一週間前は三連休。無理して起きていることもない
か、と早々にベッドに入ったら、朝まで十二時間熟睡。起きて三時間ほ
どすると、また横になりたくなって、六時間の昼寝。さすがに何か胃に
入れた方がよかろうと、牛乳を温めて一杯飲み、そのまま起きていよう
とするのだが、二時間ほどで、また横になりたくなり、日暮れと共に就
寝して、再び十二時間睡眠。
 体温計を測る気にならなかったから、熱はなかったのだろう。
 しかし、食欲はゼロで、おかげで、四日間で約三キロ減。
 風邪の時でも風呂に入らずにいられなかった私が、入りたいと思わな
い。
 さまざまな点がこれまでの経験に当てはまらないので、医者の見立て
どおり、風邪ではなかったのだろう。
 が、なんであれ、三連休にダウンした際、私は、秘かに、やったぁ、
と思ったのだった。
 友への約束をすぐに果たさない言い訳を、風邪のせいにしようとした
ら、厳密には風邪と違うけど、まあ、遠くに住む友にはそう言って通じ
るような状況が実現した。
 嘘じゃないから、心苦しくない。
 でも、今、私は思う。病気を言い訳にしようとした発想自体が間違っ
ていたなあ、と。だって、その思いが病気を引き寄せたようなものだも
の。