夏は、ロングスカート

 夏のバーゲンの熱気に包まれようとデパートに行ったら、小さな木の
実がプリント柄の半袖ブラウスに目が吸い寄せられた。
 同柄のスカートはあるかと問うと、倉庫からロングスカートを出して
きてくれる。私の雰囲気にぴったりと言われたが、丈の長さに、心がた
めらう。
 夏はスカートの方が足元が涼しくて、私が一年で一番スカートを履く
季節。
 持っているのは、全部ロングスカート。
 ただ、世のおばさま方の定番でもある。
 ために、私も無意識に体型を隠したいだけなのだろうか、と密かに屈
託していたのだ。
 しかも、この時は、バーゲン期間中にわざわざ定価の品を買うことへ
の困惑もあった。買ってからも、まだ迷っていた。
 と、アメリカ在住の友がいて、彼女はベリーダンスのダンサーとして
パーティに呼ばれるぐらい、趣味がセミプロの域に達しているのだが、
彼女の発表会の模様をYouTubeで見て、私は希望の光を感じた。くるぶ
し丈のロングドレスがとても彼女に似合っている。
 彼女は、日本女性の理想身長である私より、少し背が高い。私は彼女
ほどスリムじゃないけど、背が高いということで、世のおばさま方では
なく、彼女と同類に見てもらえないかなあ。
 夏休みで帰国した彼女に話すと、
「ロングスカートは、身長がないと着こなせないからね」。
 第一条件は身長だと理解して、いいのよね。
 ところで、彼女。
「普通は、歳を取るほど、買う服の値段が高くなるでしょ。私は反対な
の」
 収入に見合って質実剛健になると、そうなるそうだが、卑下するでも
やせ我慢でもない口調の透明な美しさに、私は思い出した。
 別の友が、旦那の仕事について短期で滞在したアメリカで服を買い込
んできたと語った時、向こうだと、庶民ならこの程度で十分、という品
質が、妥当な値段で買える、それに比べて日本は高い、と述べる口調に
優越感が潜んでいるのを、私はちゃんと嗅ぎ取ったのだ。
 となれば、言わずにいられない。
「飛行機代を入れたら、結局、高くついていることになるんじゃない」
 子供の年齢を聞かれ、どこそこ大学の何年生だと答える女親をテレビ
で見たが、この時も、世間に自慢したい気持ちが、言葉の上にしっかり
見えた。
 人間らしい感情。
 ではあるけれど、優越感は、人の劣等感を刺激する。
 そのつもりはなくても、劣等感を掻き立ててしまう場合があることを
考えると、意図した優越感の扱いは、かなり要注意かも。