客をのがす店

 うちから余裕で日帰りできるが、ちょっとした小旅行と言えなくもな
い距離に住む友達の家に遊びに行き、観光地を散策中、普通だったら、
目が素通りするだろう古ぼけた建物に『ペットショップ』の看板。入り
口外には、生まれたてのジュウシマツの鳥籠。
「ちょっと入っていい?」
 カナリアの餌が切れかけていて、ここで買えるかもと閃いたのだ。
 実は、その周辺でそうできたらと、事前にインターネットで調べてあ
った。が、「小鳥」のキーワードでヒットしたのは違う場所の一軒のみ。
ホームページを持たない個人商店は、ことほど左様に、インターネット
情報が不正確な場合が多い。
 代金を支払ってから、壁一面の水槽を見て、孵化したばかりの金魚の
餌について訊ねてみた。
 私は金魚も飼っている。
 たったの二匹が雌と雄だったようで、これが頻繁に卵を産むのだ。
 すると、奥さんが、生の餌が一番だが、うちは冷凍しか置いていない
と言い、私の記憶にある名前を口にした。
 その製品名も、生が良いけど手に入りやすいのは冷凍の餌、という説
明も、以前、私がインターネットで調べた情報にぴたりと合致。
 この店は信頼できそう。
 私の生活圏内で金魚の餌を取り扱っている専門店は、デパート屋上の
ペットショップになるが、そこの店主は、冷凍の餌は置いていないが、
乾燥ミジンコでも稚魚は十分育つと請け負い、信じて購入したら、二回
チャレンジして、二回とも失敗。稚魚はミジンコに見向きもせず、みん
な餓死した。
 そう話したら、奥さんが、稚魚は食べない、と笑い、やおら冷凍庫か
ら売り物の餌を取り出し、一回分、水槽の魚にやろうとする。
「なんで、わざわざサラのを開ける」
 旦那が不機嫌な声で見咎めた。
「別にいいでしょ」。
 それで勝敗がついたらしく、おかげで、どれほど細かい餌で、成魚も
その餌がどれほど好きか、目の当たりにさせてもらえた。「あ」という
間に、餌は魚達の口内へと消えたのだ。
 これにて、デパート屋上店への私の不信は確定した。
 今売れればいいとばかりに適当なことを言うような店に、誰がまた足
を運ぶかネ。
 ・・・それが、運んでいるんだなあ、私。
 近くに他の店がないせいで、泣く泣く、定期的に金魚藻を買うために。
 けど、カナリアの餌は、絶対、そこで買わない。
「食べさせたら、違いがわかります」なんて、見事に餌が減りません、
っていう意味に決まってるもの。