あなたが、そこにいてくれるだけで

 新年が始まったが、中学の同窓会の話を続けたい。
 その日、私はデジカメを持参した。
 コンパクトデジカメは、レンズの明るさに限界がある。
 けど、室内で内蔵フラッシュをたくと、人の顔が白飛びする。
 それが嫌なら、フラッシュ厳禁。
 するとシャッター速度が遅くなり、手ぶれリスクが高まる。
 顔の白飛びだけは避けたいので、フラッシュを切ることにするが、露
出やホワイトバランスなどもいろいろ試し、今後室内撮影で確実に成功
するためのデータ収集の場にさせてもらうつもり。
 ところが、会の初めに一眼レフで集合写真が撮られ、そのプリント印
刷を、帰りに全員にくれたけど、その時以外、誰もカメラに触れず、デ
ジカメを仔犬のように武器にして、顔と名前が一致しない人達に気安く
声をかけて回る行為に出たのは、私一人。
 やがて、ネットで写真を公開してほしいと声があがった。
 私にはできない。
 誰か、できる人、いる?
 数学や理科の現役教師ですら、知らない、できない、チャレンジする
気はないと逃げる。
 翌日、幹事から、個人的に高校の同窓生に引き受けてもらうことにな
ったとメールが来た。その幹事と私は高校が同じで、つまりは善意の高
校同窓生とは、私の友達でもある。
 写真の色修正をし終えて、さあ、善意の友に託そう、という時になり、
私は思った。
 ネットへのアップロードを、なんで私はできないんだろう。
 本当に私にはお手上げなのか。
 Vectorで一押しの無料の画像変換ソフトを入手してみたら、あっけ
なく写真の容量を縮小できた。
 フォトアルバムの無料サイトは、高校の同窓生のメーリングリスト
公開された幾つかを検討して一つ選んだら、これまた、あっさりアップ
ロードできてしまう。
 私って天才?
 思わず誰かに自慢したくなるが、何はともあれ、ああ、嬉しい。幸せ
だなあ。
 だって、誰かを頼るしかない状況は、自由じゃないってことじゃない。
 私がちょこっと頑張ってみる気になれたのは、駄目なら頼れる善意の
高校同窓生がいてくれたおかげだが、彼が私と同じMac派というのも、
心理的に私にやる気を起こさせてくれることになった。
「ほんとうに、ありがとう。
 自分はなんにもしていないよと言うかもしれない。
 事実はその通りでも、
 その存在が人にやる気を起こさせてくれたのなら、
 なにもしていなくても、素晴らしいことをしてくれたことになるので
す。
 信じてね。」
 彼に送ったメールの一節だ。