怒りの完全制御は、修行なり

 怒りは、どんなに正当な理由があっても、持ち続けるほど炎が煽られ、
その分だけ自分自身の清らかな心が毒にまみれる。自分の心が一番ダメ
ージを受けるから、すばやく手放すべきなのだ。
 が、前回、私がかなり理想的にそうできたのは、相手が、私の今の人
生に深く絡んでこない中学の同窓生だったから。
 二次会に参加せずに帰ろうとする私に近づき、写真のアップロードを
申し出てメールアドレスを渡した彼女の、その後の心変わり。いや、心
変わりとすら認識していないらしい事実全否定の彼女の態度は信じがた
く、彼女が事実を認めてくれさえしたら、私の気は収まるであろう。で
も、そういう相手じゃないからこうなっているとも考えられ、ならば、
うっかり小石に蹴躓いてしまった私だけど、コケはしないから、と意を
強くして、心をスッとそこから離した。
 さあ、彼女も、私も、それぞれに幸せ。
 のはずが、数日後、彼女から「私からのメール、届きました?」との
メール。
 え。私、メールを無視する失礼な奴ってことにされかけてる?! 
 ここまで意思疎通がちぐはぐなら、写真の送付方法について事前予告
した私の最初のメールを、彼女が本気で、うーん、意味わかんない、と
読み飛ばした可能性は出てくる。
 私にとっての事実。
 彼女にとっての事実。
 もしもっと親しい間柄なら、互いに不信を打ち明け合い、なーんだ、
そういうことだったの、と笑い飛ばせただろうに。
 それこそが最良の怒りのおさめ方。
 ・・・と悟ったようなことを思った途端、親しい相手に対してなら、
本当にそうできる?という疑問が挑発するように私の心に浮かんだ。
 東京在住のフランス人の友がパリにアパルトマンを買ったのは、いず
れパリに戻る時のためだが、今は誰かに借りてもらう必要がある。
 一方、パリには、もう少し広いアパルトマンに引っ越したい若い夫婦
の知り合いがいる。
 私は、彼らを東京のフランス人に紹介した。折しも、彼は、出張を兼
ねて年末年始にパリに行くというタイミング。
「帰ったらすぐに連絡する」
 東京に戻った彼から、遅い年賀のカードが届いた。
 が、その件への言及はひと言もなく、私はイライラ。
 私から電話すればいいようなものだが、それはなんか違うと思う。
 あ、それかな。
 彼が私に報告してくるべきだという思い。
 その思いが、苛立ちとなって、私の心をうっすら汚す。
 怒りは追放したいのに、心に居座ることを赦してしまっている。