ああ、決断力

 誕生日にプレゼントを交換し合うことはほとんどなくなったが、フラ
ンスの友達とだけは続いている。
 私の誕生日が彼女のよりちょっと先に来る。
 今年は、もらう前から中身がわかっていた。
 フランスの男性シンガーソングライターのCDだ。フランスのニュー
ス番組のVTRをインターネットで見ていたら、その歌手が紹介され、
YouTubeで曲を聞くと、アコースティックギターがメインのスタイルは
古風だが、おかげで歌詞がすんなり耳に届く。そんなことを手紙に書い
たら、じゃあ、今年のプレゼントはその人のCDにしようか、と彼女か
ら提案されたのだ。
 ところが、もう一枚CDが入っていた。YouTubeで偶然知り、気が惹
かれた女性歌手について、フランスでどのぐらい人気なのかしらんと軽
く触れたら、現物のCDで返事を返してくれたのだ。
 プラス、ガラスのペンダント。
 こんな豪華なプレゼントは想定外で、驚き、喜ぶものの、私が用意し
ていたのは、彼女が大ファンの喜多郎のCD一枚のみ。これでは釣り合
いが取れませぬ。
 急遽、近くのデパートに走った。
 キーホルダーの何か良いのがあればなあ。
 すると、バレンタインデー企画なのか、革製品をオリジナルで組み合
わせ、キーホルダーや携帯ストラップに仕上げてくれるコーナーが出現
している。
 彼女は典型的なフランス人で、水色が好き。なので、その色の犬のモ
チーフをベースに選び、ピンクの小花をプラスした。
 が、ほかに四人ばかり、日本の友達へのプレゼントもここで調達しよ
うと閃いたら、もういけない。
 彼女達の好きな色を知らないのが最大の原因だったが、べースのモチ
ーフの形と色選びでまず悩むし、なんとか決めても、付け足すパーツの
形と色、それを決めたら置く位置、留め具の色、金具の形・・・と、自
分の代わりに誰も何も決断してくれない状況は、終わりなき苦役に感じ
られてくる。
 時間だけがびゅんびゅん過ぎる。
 自分用ならもっと簡単に決められただろうに。
 本当かなあ。
 台所の水道の蛇口を見て、私は自問自答する。
 二度も修理してもらったのに、またもや蛇口が右にも左に動かなくな
り、最新式の意味が消滅。
 が、たとえば、家を新築したりして、蛇口を選ぶことになったら、最
新式の目新しさより原始的な安定感を優先して、正しい選択ができるか、
というようなことだ。
 正しい選択をしたつもりでも、決めたあとまで、うじうじ悩み続ける
んじゃないかなあ。