リコールとまではいかなくても

 前回「水道の蛇口」と書いたのは、正式には「水栓」と言うそうな。
 知っていれば、「キッチン用水栓」の「ハンドシャワータイプ」と書
けたのにな。
 それはともかく、我が家のは、蛇口に繋がるパイプが根元から左右に
大きく動くタイプ。
 のはずが、九年前、新築だったこのマンションに引っ越してきた初日
から右方向に動きにくかった。
 使っていれば「こなれる」だろうと楽観していたら、こなれるどころ
か、三年前、パイプが動かなくなった。
 流しが幅広なので、水切りは、底が網目状になったのを流しの右部分
に渡しているが、そちら側で水栓パイプが固まったため、このままでは
水切りが置けない。
 慌てて修理を頼んだ。
 パイプが当初から右方向に動きづらかったのは初期工事の際に固く締
めすぎたせいだと、修理に来た担当者二人が認めてくれた。
「水垢が溜まると動きが悪くなるから、頻繁にパイプを動かしてくださ
い」
 そうしたのに、一年後。
 またパイプが固まり、また修理を頼み、修理担当者のせいではないと
わかりつつ、
「一年で動かなくなるもんなんですか」
 つい、つっかかってしまう。
 水垢のせいと言われても、普通に使っているだけで動かなくなるなら、
パイプの構造自体にそうなっても仕方ない問題があるんじゃないの。
「クレームとかはないんですか」
 と聞いたら、この水栓は、パイプの中に伸縮性のパイプが組み込まれ
ているので、それを引っ張り出して使えば、パイプ本体が動かなくても
気にならないという人が多いようだ、という答え。
 ええっ。それって仕方なしの次善の策でしょ。それをメーカーが堂々
と口にするって、あり得るの。
 いや、この人達は、この手の修理がいくばくかの時間稼ぎにしかなら
ないと知っていて、でも仕事なのでせねばならず、そんな中で、もっと
も誠実な意見を示してくれたのではないか。
 今年、またもやパイプが動かなくなった。
 みたびの修理という発想は我が家に生まれなかったが、引っ張り出せ
るパイプで代用することもしない。これを使いすぎると、パイプ本体と
の接合部分にカチッと収まらなくなるからで、その兆候がすでに見えて
いる。
 母は、黙って、蛇口の角度を少し左斜めに固定した。
 水を止めて二、三秒後に蛇口に貯まった水がどっと落ち、なんともマ
ンガ的。
 だが、不具合が完璧に解消されたかわからなければ、買い換えること
もできぬ。
 救いは、命に関わる不具合ではないことか。