筋肉の貯金は尽きていた

 奈良、東大寺のお水取りが終わるまでは、暖かくなったようでも、春
は先。
 しかし、あすは春分。桜も「観測史上」の冠付きで開花報告が始まっ
た。
 今年、私はお水取りに行けなかった。去年の十一月には、はやばやと
宿をおさえていたのだが。
 旅の二週間ほど前に、予定に変わりはないことを友と確認し合い、私
はガイドブックやインターネットで情報収集に着手した。
 が、真剣になれない。過去三回のお水取りは、毎回、みっちり情報収
集して臨んだので、その蓄積があると自信があったからではなく、調べ
ても徒労に終わりそうな気がして仕方ないのだ。
 平城遷都千三百年に向けていろいろ店も充実してきたようだし、今年
は行き当たりばったりを楽しめばいいか。
 旅行の前日、友からの電話を待てずに、朝、私から電話をし、留守番
電話に吹き込んだ。
「あした、予定通り行くのでいいのよねえ」
 この期に及んでも、荷造りが無駄に終わる気がしてならない。
 ほどなく友から電話がきた。
「足首の調子が変なのよ」
 去年、大神(おおみわ)神社のご神体、三輪山に入山したら、途中か
ら彼女がしんどそうになり、
「もう引き返そうか。それでもいいよ」。
 私は言うのに、
「大丈夫。まだ頑張れる」
 彼女は言い張る。
 山頂で三月の小雪に出迎えられるという幻想的な体験ができ、彼女は
途中挫折しなかったことに満足したが、東京に帰ると、皇居の周りを歩
き始めたとか。
 その頃から、左の足首に力が入らず、歩けなくなる症状がたまに起こ
るようになった。原因不明。しばらくすると治る。
 それが、旅行の前日、私と電話をする直前に起こったと言う。
 私は、話をつつ、インターネットで調べて、
「足がまっすぐじゃないと、足がねじれる形で体重を受け止めることに
なって、そうなることもあるみたいよ」
「あ、きっとそれだわ」
 体力づくりにせっせと歩くと、足を痛める、というのが本当に正解な
ら、ショックだろうな。まあ、原因がわかれば解決すれば済む話なんだ
けど。
 かくて旅行は中止となり、私の予感は当たった。
 それでよかったかも。
 彼女の言葉に、我が身を振り返ったら、この冬は熊のようにごろごろ
暮らしていた私。
 慌ててレッグマジックに乗り、内筋に最大負荷をかけるべく足を閉じ
て立つ姿勢を取ると、楽に三十秒はできていたはずが、きつい。両足首
におもりを付けると、おもりが重たい。
 このまま旅行に行っていたら、きっと、私の方がばてていた。