私は近視。
今、眼鏡を二つ持っている。
古いのは七年間も使っていた。
道理でレンズは拭いても汚れが取れないし、拭きすぎた傷で視野が曇
り、気分まで曇るようになっていたわけだ。
そんな私は、去年の年末、デパートの眼鏡売り場を通りかかった際、
随分汚れている鼻パッドを替えてもらおう、と閃いた。
「お金がかかりますが、いいですか」
え、有料?
踵(きびす)を返したいが、
「はい」
もうカウンターに座っていたので、見栄を張る。
有料なのはデパートの方針。その店員の方針ではないだろうに、「い
けすかない店員」と内心思いつつ、そろそろ私の眼鏡は買い換え時だと
思うか、と訊ねた。
「そうですねえ」
暗に肯定される。
私は、私に似合う眼鏡のフレームはあるかと問いを重ねた。
鼻パッドの代金を支払うのであれば、「正当な客」。そう思うと、ゆ
ったり構えられる。
しかし、まずは鼻パッドの支払いだ。
私のクレジットカードを見て、
「今、カード会員様対象にフレームは二十%、レンズは三十%引きセー
ル期間なんです」
ほぉ・・・。
選んでくれた三点を検討する目が、つい真剣になる。
チタンフレームは驚くほど軽くてしなやかで、つけた時の軽さが想像
できるが、私の目の位置から判断しても、それが私に最適だとか。
じゃあ、レンズは?
当然、店員は、埃と傷が付きにくい最上級を薦めます。
その後、私は視力検査も受け、次に来た時、手渡された伝票を見せれ
ば、即注文が完了、という状況が整い、送り出された。
ちなみに鼻パッドの代金は請求されなかった。
店員は、私が眼鏡を買う、という方に賭け、眼鏡専門店並みの無料方
針に切り替えたのだろう。
もちろん、私は逃げ切ることはできた。
そうしなかったのは、目が飛び出るほど高額でも、古い眼鏡同様、七
年使い続けられたら許容範囲になる、と計算したからだ。
何より、たとえば、夜中に大地震が起き、眼鏡を手に取れずに家から
脱出、なんてことになったら、五メートル先の家族とも生き別れになり
かねない私にとり、眼鏡は命の次ぐらいに大切。
そこでお金をけちってどうする。
その判断に後悔はない。
そして今、まったく拭く必要が生じない高性能レンズの現実に、感嘆
させられている。
だが、急に暑くなってきた。
汗は眼鏡のフレームを痛める。
それが嫌で、古い眼鏡を時々使うようになった。
新品はボーナス払い。
まだ支払いも済んでいないのだ。