「えぐい」と「グロい」

 個人的に英語を教えている三人姉妹の小五の末っ子に「えぐい」と
「グロい」の違いを質問された。
 微妙なニュアンスの差は感じるが、自信はない。それを「ま、いいか」
でやり過ごそうとしなかったところが素晴らしい。
「来週までに考えとこ」
 彼女と私の宿題にした。
 私自身は普段遣わぬ言葉なので、咄嗟にうまく説明できそうになかっ
たのだ。
 さて翌週。
 私なりの語感を説明し、具体的な例は口蹄疫を題材にした。
 人が食べるために飼われている動物は、病気になったら殺される。特
に感染性の病気は感染拡大を防ぐため、それ以外に方法がないことにな
るが、仕方がないとわかっていても、感情的にはやっぱり、「えぐい」。
 一方、そうして殺された死体が延々と連なっている様は、想像するだ
に「グロい」。
 高二の長女が大きく頷いてくれ、そこから、結論だけを言うなら、
「(人間は)いつか罰が当たるデ」
 というところまで会話が進んだ。
 その間、中学と小学生の下の子は口を挟めず、黙って聞く状況。
 さすが十七歳。高校生にもなったらほぼ大人、と思いそうになるが、
彼女自身の英語レッスンが始まると、私の日本語に、
「そんな言葉、遣わへん」
「聞いたことない」
 挙げ句の果ては、
「そんなん、知らんかっても困らへんワ」
 と刃向かってくること多々。
「先生は、英語より日本語の方が難しい」
 ・・・。
 ジレンマという英語を、そのままカタカナにして遣ってもいいけれど、
言葉の意味がわかったつもりで本当にはわかっていないと困ると思い、
「板挟み」と言うと、二枚の板で左右の頬を挟む格好をして、
「こういうこと?」
 ・・・・・・。
「なし得る」と訳せばほぼ直訳になるし日本語としても秀逸だと教える
と、学校の試験でそう書いたら×だったと口を尖らす。
 解答用紙を見ると、
「なし〈ゆ〉る」
 聞いたことがない言葉はそんな風に聞こえていたのか。彼女が書き留
めた日本語のチェックまではしなかったもんなあ。
 が、時間が許すなら三十分でも熱弁をふるえる理由説明は端折って、
「だから、もっと本を読んでェ。本じゃなくてもいいけど」
 私は叫ぶ。
 これで何度目になるだろう。
 と、
「小学一年までは土曜日も授業があったけど、それからゆとり教育にな
ったし」
 ぼそっと彼女。
 あ、それは違う。
 私は、大学一年の時、先輩に「紺屋の白袴」と言われて、きょとん。
 ただ、知らなくても「よし」としなかっただけだよ。