パーティドレス

 保育園に英語を教えに行く日、私は黒いベロアのワンピースを着てい
った。
 ノースリーブで、背中は肩胛骨あたりを左右に水平に切るライン。
 ものすごく背中が開いているわけではないが、背中は首の根元あたり
まで布で覆うのが普通のワンピースと比べると、ちょっと特別。
 でも、どうか、ばれませんように、と思っていたのに、私を見るなり、
保育士の一人が、
「あ、パーティドレスみたい」
 あっさりばれた。
 そりゃそうよね。ベロアのノースリーブのワンピースとくれば、それ
しかない。
 ただし、「とっても古いイメージの」。
 昔の固定概念をそのまま具現化したようなドレスは、あまりに定番、
よってそれを着るのは気恥ずかしい、という思いを抱かせるのだろう。
買い手が付かず、ついに捨て値で売りに出た、という風に私は解釈した。
四、五年か、それ以上前の話だ。
 ところが、一緒に買い物に行った母は、その安さにボーゼンとして、
私に買うようにと強く勧める。
 実は、もう一着、くるぶし丈のロングドレスも買ったので、計二着分
の死に金になった。
 結婚式でもパーティでも絶対着ないとわかっていて買ったから、「死
に金」。
 だが、着ないものを、一体、いつまで死蔵すればいい。
 捨てる。あるいは、結婚式やパーティ以外に着る機会を見つけるべき
ではないか。
 折しも梅雨。
 どこもまだ冷房が効き過ぎるということはないので、ノースリーブで
も寒くない。
 ベロア素材は割と厚地で、夏前の今こそがふさわしい。
 で、普通のワンピースだと見てもらえないかなあ、と甘い期待を抱い
て行ったら、
「うわあ。今日は色っぽいわぁ。いつもと全然違う。これからもそうい
うのをじゃんじゃん着てきて」
 と別の保育士には言われるし、とどめは園長の二歳の息子。
 私にまとわりついてくるので、抱き上げたら、
「先生。かわいィ」。
 そう言って、照れたように私に頭をこすりつけてきた。
 園長と私は大笑い。
 二歳児にお世辞や社交辞令は使いこなせない。つまり、思いを素直に
口にしたということで、わずか二歳でも立派に審美眼があるという事実
に、大人の私達は気持ちよく驚かされたのだ。
 私は、この日のドレスは、むしろ、いつもと同じように見過ごしてほ
しかった。
 しかし、気づいて、褒めてもらえると、それはそれで大いなる安堵で
はある。
 が、安さを自慢したい関西人の私でも、どうしても「千円」だとは、
ばらせなかった。