友を失う

「こういう人にカクカクシカジカと言われたのがとてもショックで、ず
っと落ち込んでいた」
 という話で彼女の電話は始まった。
 気持ちがナイーブになっているのね。じゃあ、辛口のコメントは控え
るわね。
 そのつもりだったのだが。
 彼女の一人娘の話になった。
 五、六年前、その子に会ったことがある。
 まだ小学生だったが、友は、自分の娘という安心感のせいか、その子
に向かい、「素」の自分を全開させた。そんな友を見るのは初めてだっ
た。
 が、友は、その感覚のまま私にも向かってきた。
 それは私の自由でしょう、ということについて、彼女の意見を押しつ
けてきたのだ。
 私は私の主導権を譲り渡したりしなかったが、もしそうできなかった
ら、自分のことなのに自分の意志で決めさせてもらえないの・・・と深
い虚無感に沈んだであろう。
 そして、友の娘の未来が気になった。
「干渉しないで」
「私の意見を尊重してよ」
 そのうち、その子もそう感じるようになるのではないか。
 果たして今、中学生になったその子は、全身全霊で友に刃向かってく
るそうな。
 それも、かなり過激な手段で。
 ということは、友は相変わらず、五、六年前の態度のままなんだ。
 そんな親から自分自身を護るのに、その子にはそれしか手段がないん
だろうな。
 過激さは、その子の苛立ちの強さ。
 もちろん、私はその思いは口にしない。
 友が、娘の今の言動はいずれ倍返しで娘自身に戻ってくるのに、と達
観したようなことを述べると、あなたが娘にしてきたこれまでの年月が、
今、倍返しで、目の前の現実になっているんじゃないのと言いたくなっ
ても、こらえた。
 ところが。
 そんな荒い感情では習い事が上達するはずもないから、しばらく休み
なさいと言うのに、娘が聞き入れない、夫にも説得を頼んだんだけど・
・・と友が言い出すに至り、私は青ざめた。
「一体あなたは何様。神様でもあるまいに、才能があるからとおだてて
習わせたかと思うと、態度が気に入らないから止めなさいですって。親
の気分で子供を振り回して、子供の人権はどうなるのよ。自分が子供の
立場だったらって考えたことはある。自分がされたら嫌な事を、なんで
平気で子供にするの」
「ずっとつらいことが続いていて、苦しくて電話をかけたのに」
 友の声がわなわなと震えたかと思うと、泣き声になり、一方的に電話
が切れた。
 あ〜あ。
 まあ、仕方ないか。
 ・・・でも、本当に仕方なかったのかなあ。