子供の気持ち

 親友と言えども、所詮は他人。
 何かを相談されても、思ったことを思ったまま口にしない。わかって
もらえそうな表現を選ぶ。
 一応そうしているつもりだったので、友に泣いて電話を切られたのは
意外だった。
 ココまでなら、と見極めたつもりの一線は、思った以上に彼女の自尊
心に踏み込むものになってしまったようだ。
 仕方ないか。
 ただ、これで長年の関係に幕が下りたと感じると、そうなることがわ
かっていたら、もっと別の言い方をしたのに、という気持ちになった。
 友が娘に習わせている習い事は、ひと昔前のお嬢さんのたしなみに相
当するものだが、数ある中でもそれを選んだのは、友も小さい頃に習っ
たことがあるからだと私は睨んでいた。
 なぜって、娘の練習に口を出せる。
 案の定、友はそうした。
 が、お金をかけて、環境を整え、熱心に応援していたはずが、「もう
止めなさい」と命じた。
 その理由は、友に対する暴言暴行。
 つまり、友は本気で習い事を止めさせたいわけではない。
「今のままの態度なら、止めなさい」。
 習い事にかこづけて、娘をコントロールしようとしているだけ。
 自分の思い通りに娘を支配しようとしている。
 そうできたら、親はさぞかし気分いいだろう。全能感に満たされるか
も。
 しかし、やられる子供は「あなたに正しい判断はできない」と言われ
続けるようなもので、限りなく無力感に包まれる。生きる気力も失せる
だろう。
「あなたは、自分の考えを子供に押しつけて、子供を支配しようとして
いるのよ。だから激しく抵抗されるのよ」
 私が本当に言いたかったこと。ちゃんと伝わったのなら、思い残すこ
とはないんだけど。
 中学に上がる前、私の母は、私がいらないと言うのに、勉強用に立派
な椅子を買ってきて、それを見た私は癇癪を起こした。
 父は、私の意見を聞くと、
「いらんと言うのに、なんで買ってくるんや」
 まともな判断で、母を責めてくれた。
 家が商売をしている友は、ある日、家に帰ったら、まったく同じ勉強
机が二つ並んでいたそうな。
 一歳違いの妹ととても仲が良いので、同じ机が一番、と母親は考えた
らしい。
「でも、ひと言、私に意見を聞いてくれたら。もっと安くて、もっと私
がほしいのがあったのよ」
 ほうらね。
 みんな、何かしら、親の押しつけに反撥した思い出を持っている。
 この友も私も独身。
 もしかして、子供を持ったら、自分が子供だった頃の記憶は綺麗に忘
れてしまうのかしらん。