足の裏

 私は、足裏を刺激するイボイボ突起付きのスリッパが好き。
 が、長く履いていると疲れる。
 これも結局はぺたっと平らなスリッパであり、この形状では、腹筋が
ない私は立ち疲れすることになるのではないか。
 今度は、イボイボ突起の快感には目をつぶり、かかと部分で切り落と
した「ダイエットスリッパ」にしてみよう。
 安いのを求めて百均に行ったら、イボイボ突起が付いたかかと切り落
としスリッパを発見。
 まさか、二つの望みが一体化したスリッパがこの世に存在したとは。
 感激して、百均だけど、税込み三百十五円支払った。
 八月一日のことだ。
 しかし、このスリッパ。履くと、突起の一つ一つを足裏が明瞭に知覚
して、痛い。
 かかとから後ろ部分がなく、体重がかかる面積が少ない分、突起の刺
激が強まるのかも。
 でも、なんか腑に落ちない。
 履く時間を短くしたり、履かなかったりしてみるが、履くと途端に耐
えがたく、つま先立ち歩きになってしまうことも。
 私の足裏は、日差しを浴びない内股のように、白くて柔らかい。
 それが日ごとに硬くなってゆく。
 そして、忘れもしない八月二十四日。って、本当は忘れないよう書き
留めておいたから、日を特定できるだけなのだが。
 とにかくその日、スリッパを履いたら、痛くない。
 イボイボ突起の一つ一つを足裏はもう判別できなくなっていて、その
代わり、足裏全体がポワンと膨張して、足だけゾウリムシになった気分。
 馴染みの感覚だ。
 私の足裏は、この感覚を取り戻すに足る硬さにようやく到達できたと
いうことか。
 どこかの国で、不当に背中を鞭で打擲(ちょうちゃく)される制裁を
受け続けた女性の背中は、指圧の指を受け付けない硬さになる、という
のは、さもありなんと思える。
 私の場合は自発的。
 で、不安になった。
 わざわざ足裏を硬くするのは、足裏に対して正しい行為か、それとも
愚行か。
 ・・・
 この平和な日本では、限りなく「個人の趣味」で済みそうな話なので、
私はますます結論できない。
 けど、硬くて逞しい方がいいような気もする。
 どんな道でも素足でスタスタ歩けた方が、万一の時に我が身を助けて
くれそうだから。
 ところで、仏教の火渡りである。
 素足でも平気で炎の上を歩けるのは「心頭滅却すれば火もまた涼し」
の境地に依ると正しく理解するも、普段から靴底のごときタフな足裏に
鍛えていればいいんじゃないのと閃いたのは、不謹慎な発想だったでし
ょうか。