黒のバッグ

 私は肌が白いと言われる。
 白い肌には黒がよく似合うはず。
 ところが、これが似合わない。
 これまでに意見を聞いた店員のすべての人達にも黒だと私の顔色が沈
むと言われたので、これはもう信じるべきだろう。
 そんな私が黒で持っているのはパンツと靴のみ。
 葬式用以外では、バッグも黒は持っていない。
 しかし、ついに日常使いの黒のバッグが私のコレクションに加わわり
かけた。
 このところずっと、マチがほとんどない、小ぶりのたすき掛けのバッ
グを探していたのだが、なんかピンと来ない。
 黒や茶色を単に無難すぎる色だとして排斥する気はないが、どれもお
洒落っぽさに欠け、遠目がおばちゃん連中のたすき掛けバッグに見えて
しまう。
 そんな中、黒だが、ステンレスの輪っかがモダンな雰囲気を醸し出す
のに成功している一点に出合った。
 茶色もある。
 普段の私なら、譲歩しても茶色までだが、そのバッグは黒の方がデザ
インの良さが引き立っている。
 これに決めた。
 そう思うも、その場で即断できず、そうこうしているうちに、そのデ
パートで、カード会員を対象に、星印の数だけ値引きしてくれるセール
が始まり、十パーセント安く買えるのであれば、迷いは消える。
 が、一足遅れで買い逃した。
 すると、品切れは店のせいなので、今日注文すれば、セール後の購入
になっても十パーセント引き価格になると言ってくれる。
 店としてはどうせ入荷する必要があるので、黒と茶の二点が入ってき
た時点で見比べてくれればいいとも言われる。
 えっ、そんな贅沢が赦されるの。ありがとうございます。
 二月初めのことで、入荷予定日の二十日に電話があった。
 「すみません。もう少し入荷が遅れそうなんです」。
 ふむふむ。大量生産ではないってことよね。
 それに、注文にせかされて雑に作ろうとしていないらしいことも高評
価。
 だって、バッグは急を要する買い物でなくなって久しい。
 セールまで売れ残った中から気に入ったのを探すので間に合うし、見
つからなければ買わなくても支障がない。
 葬式用の黒は、葬式の直前に、さすがに定価購入を覚悟して近くのデ
パートに走ったが、星印値引きセール中で十パーセント引きで買えてし
まった。
 とは言え、今日で二月が終わる。
 なのに未だに入荷されないという待ち時間の長さが気になってくるけ
れど、でも、いいんだ。
 入荷したら一応しっかり見させてもらいたい。
 でも、絶対買わないと断言できる新たな事情ができたのだ。