春色のバッグ

 バッグを一つだけ持って出かけようとすると、どうしてもバッグが大
きく重たくなる。
 二つ持ったらどうだろう。
 そう気づいた私は、早速、財布やケータイ入れ用の小ぶりのたすき掛
けバッグを探し始めた。買ってもよさそうな黒色のを見つけるも、一足
遅れで買い逃したが、発注してもらうことになったので、もう探し回る
のは終了。
 でも、バッグ売り場があると、覗かずにはいられない。
 そして、ふらっと立ち寄った別のデパートで、シャンパンピンクの新
作バッグに遭遇してしまった。
 こんなにも春らしい、幸せそうな色が革でも出せるのか。
 使いやすさが凝縮した形もさることながら、「普通にはない綺麗な色」
というのが私の心をとろけさす。
 入荷待ちの黒より定価が高いし、カード会員の五パーセント引き以外
の特典はなく、買うとしたら予想以上に高い買い物になる。
 値段で諦める勇気も必要よね。
 それでも店員に私の今の状況を正直に話したのは、諦めきれない気持
ちの現われであったか。
 すると店員は、その黒のを見てから決めても遅くないのではないかと
進言してくれた。そこのデパートでもしている星印セールの次回予定を
聞くと、調べて、四月だと答えてから、その時なら十五パーセント引き
になるので、急がないのであればその時を待てばいいのでは、と親身な
意見を言ってくれる。
 黒のバッグと比較できるよう、そのピンクのバッグ本体の寸法とベル
トの長さを書いてもらい、私は上の階にあがった。
 が、五分後、売り場に戻ると、そのバッグを購入した。
 私が持っている革のバッグはどれも、死ぬまで捨てる必要に迫られる
ことはないと思う。経年劣化が味わいになるのが革の良さ。
 その仲間に入る物を買うのなら、「ああ、素敵」と心震えた物こそ選
ぶべきではないか。魂を鷲づかみにされてしまった物まで、安い時機を
狙って買おうとするのはあまりに精神が卑(いや)しすぎないか。
 卑しい、みみっちい、いじましい発想が賢明さに結びつく時もあるが、
単なるさもしさになる場合もある。
 今は気高き精神で向かうべき時。そう考え直したのだ。
 後日、入荷した黒のバッグを見に行ったら、なんでこんなのを良いと
思ったのだろうと感じられたので、迷わず却下。
 先に黒のを買える状況であったら、シャンパンピンクのは泣く泣く諦
めただろうと思うと、黒のが一ヶ月ほども入荷待ちになってくれたのは、
ピンクのバッグと出合うための天の計らいだったと思えてきた。
 おめでたいかなあ。
 いいよね。