バーサン、厚顔

 顔が真っ赤にかぶれ、市販の化粧水がヒリヒリ肌にしみた時に手作り
化粧水を始めたが、今は、大手化粧品メーカーのパラベンの入っていな
いのを使っている。
 肌の調子は良好。
 ただ、このブランド。定期的な三十パーセント引きセールの対象外な
のだ。
 すがすがしいほど公平だと考えれば、文句はないが。
 いつも購入している大型小売店内の売り場に、朝一で行った。
 購入価格の二倍、ポイントをつけてくれる日は、私にとって唯一のお
買い得チャンス。でも、三十パーセント引きの魅力には劣るから、客は
少ないはず。
 機械でお肌チェックしてもらい、分析結果を聞いていたら、白髪(は
くはつ)美しき女性が来た。
 手にはメモ。
 買う物は決まってるのね。
「先にしてあげてください」
 私が言うと、
「え・・・すみません」
 女性が戸惑ったように頭を下げる。
 店員がレジに行っているあいだも、また謝る。
「いえ、いいんですよ」
 私は恐縮して、ケータイ画面に目を戻す。
 次に来た人もメモを手に持っていたので、「お先にどうぞ」。
 優しいのではない。待たれていると思うと落ち着かない、という私の
気持ちの事情のゆえだ。
 この後は、かなりのあいだ私が心置きなく店員を独り占めできる時間
が続いたが、ついに人影が。
 大きなダミ声で店員に話しかけつつ、私の横の椅子にどっかと座る高
齢者。
 一方的に喋り続ける。
 取り置きの商品を精算して受け取るだけらしいが、私は氷の表情で沈
黙。
 馴れ馴れしさでは割り込みを許してもらえないと悟ったのか、立ち上
がり、壁の鏡の中の自分自身に見惚れたりしていたが、
「眉筆、貸して」
 またもや横柄なことを言って、私達の邪魔をする。
 私は、目の前の鏡の中で、彼女のケバい茶色の白髪染めパンチパーマ
をじろじろ観察させてもらうも、無言。
 やがて私は購入商品が決まり、店員がレジに行こうと立ち上がった。
「私のも一緒にしてきてェよ。せやんと、また時間がかかるやん」
 すかさず指図する茶髪。
 店員はあらがえず、二人分の精算をして戻ってきた。
 私は、さっさと視界から消えてほしくて、茶髪の用事を先に済ませる
よう頼む。
 ちょっと嬉しそうに立ち去りかけたその背中に聞こえよがしに、私は
言った。
「客もいろいろで、大変ですねえ」
 あぁ悔し。
 もっと心にグサッとくる底意地悪い言葉を言いたかったのに。
「年寄りって、待てしばしがないんですからねェ」
 とかサ。
 咄嗟に思い付けないのは、才能のなさ。
 京都人に弟子入りしたい。