リモコン・キー

 うちのマンションの鍵は、頭の部分がカバーで覆われている。
 その中央のボタンを押すと、外部からマンションに入る時、遠隔操作
で扉が開く。
 が、電池が切れた。
 過去に一回電池交換したはずだが、あの時どう対処したのか、まるで
思い出せない。
 困った。
 要は電池交換してくれる店さえわかればよいのだが、皆目見当が付か
ないのである。
 でも、まずは自力でやってみるべきかも。
 ねじがはずせるかどうか。電池を探すのは、そのあと。
 私が持っている極小のプラスドライバーを当ててみると、微妙に大き
さが違うのか、ねじが回らない。
 無理に頑張ってねじ山を潰すより、専門家に任せることよね。
 ということで、あっさり他力作戦に変更。
 こういう小さいねじをはずして電池を替えるのは、たとえば腕時計。
 だが、デパートの時計売り場に行くと、
「その電池は当店では取り扱っておりません」
 と言われ、恐縮した口調でも、私は突き放されたような気分。
 と、大手スーパーからの帰り、入口脇に靴修理の店。鍵のサンプルが
壁にかかっている。ここならいけるかも。
 鍵を見せる。
「二十分ぐらいいただければ」
 救世主に出会った気分で、値段を問うと、
「千五十円です」
 値段表に出ていないのに即座にそう言われ、すると、少々手間賃が高
くても交換してくれるなら、としおらしい気持ちでいたのが一転、手間
賃をいくら上乗せしているんだろうと気になってきた。
 少し前に、玄関の、人を感知して電灯が付くセンサーのカバーが割れ
たのを替えてもらった時、新品が入っていたビニール袋を電気屋が持っ
て帰り忘れ、そこに四百円と記されていたメーカー価格は、私が請求さ
れた三分の一ほどだった。
 そう言えば、レストランも、採算ベースからは、原価の三倍が定価設
定になると聞いたっけ。
 それが世の常識なのか。
 もし自分で電池交換できたらと思うと、悔しくなる。
 この時は二十分待つ時間の余裕がなくて、そのまま帰宅。
 数日後。
 マンションの一階ポストに新聞を取りに行くと、住人用の応接ルーム
から住人の女性が飛び出してきた。
「鍵のカバーは割れていませんか」
 鍵を何度か落とすうちに、その衝撃でカバーが割れていたが、それは
一ヶ月ほど前に理事会紹介の業者の人が来て、交換してくれた。
 おや。ガラス張りの応接ルームの中にその人が。
 今日も出張修理なのか。
 なんというタイミング。
「彼に相談しなさい」
 という神様からのサインに間違いなかろう。
 私は中に入った。