変えたら、さらに変化する

「その話は聞きたくないって言ったのに、またその話。私が何を言って
も、結局、考えは変えないんでしょう。だったら、話をするだけ時間の
無駄。私じゃなくて、『お前の言うことは正しい』って言ってくれる人
が誰かわかっているんだから、そういう人に聞いてもらえばいいじゃな
い。軽蔑するとは言わないけれど、不愉快な話で私の心を・・・汚さな
いで」
 そして私は、
「それはいじめか」
 と言い放ち、話を断った。
 しがらみはなく、好きに発言していいとは言え、目上の男性に向かっ
てここまで言ってはさすがにまずいと心の中で警告音が鳴り響いていた
が、彼が限度を越えたのだ。
 私は一度やんわり拒絶したのに、性懲りもなく、有無を言わさず私が
答えねばならないよう私を追い込んできて、私が心底嫌がっていること
は無視。
 その鈍感さに馬鹿馬鹿しくなり、話を最後まで聞き、私の考えを述べ
るという、これまでどおりの対応をしてもよかったが、それでは、彼に
は媚びられても、私が私自身を虐げることになる。
 自分を守るために、「私の心を汚すな」「それはいじめか」と私は心
からの叫びをあげた。
 彼はあきらめた。が、私の言葉を理解したわけではないと次の時に思
い知らされた。
 少し神妙な様子を見せただけで、普段と変わらぬ彼。
 一方、私は、彼と目を合わせない、彼の軽口に乗らない、最低限度の
言葉しか交わさない。笑わない。
 思い返せば、
「菊さんにそう言われたから」
 さも、いつも私のアドバイスを聞き入れているという態度を見せるけ
れど、単に自分がそう決めただけ。なのに、強い味方のように私の名前
を紛れ込ませる。
 そんな風に名前を引用されるほど、私は彼の話に親身になっていたと
いうことだ。
 ほかの人達は適当に調子を合わせるのみ。彼はそれでも良い気分だっ
たが、ホステスにうまくあしらわれているような物足りなさもあったの
だろう。生真面目に対応する私はいいカモだったのだ。
 そうわかってしまったら、これ以上彼に都合よく扱われたくないし、
彼に付け込まれたくないと、私のからだが彼を拒否した。
 大人げなかったと思う。でも、そうしかできなかった私自身を私はい
とおしむ。
 彼は私の様子が何か変だと感じたのか、名前で私に呼びかけないが、
明らかに私に向けて言っているとわかる言葉で私に話しかけた。
 私はよそを向いたまま、聞こえないふり。
 彼はようやく理解し、ほどなく、思わぬ形の反撃に出た。
 彼は、私を懲らしめたいと考えたらしい。