ペンタトニックス

 フランスに住んでいた頃、いとこが、彼女の好きな曲をカセットに編
集して、送ってきてくれた。
 あの頃はまだ、カセットが一番簡単便利だったんだなあ。
 どの曲も素敵で、ふーん、こんな歌がはやってるんだ、こんな歌手や
グループがいるんだと感激し、そして思った。
 なんで私には初めての曲ばかりなんだろう。
 いとこは、どうやって、こういう歌を知るのだろう。
 私はピアノを習っていたし、高校では音楽専攻だったが、何かに集中
し始めると音が邪魔になるので、音楽がなくても生きられる。一方、い
とこはそうではない、ということなのか。
 そうであるなら、いとこにとっては単に「蛇の道は蛇」ってこと。
 でも、私の一面を知ったら、私の方こそ「蛇の道は蛇」と言われるか
もしれない。
 先月、簡単な英語の歌詞でできたクリスマス曲を探していたら、You
Tubeでペンタトニックスの『Oh Holy Night』に遭遇。
 そこから、男四人と女一人のこのグループはアメリカのアカペラのオ
ーディション番組The Sing-offで第三回チャンピオンとなり、十万ドル
の賞金とソニーミュージックとの契約を獲得したという情報に行き着い
たし、優勝までのすべての回の彼らの歌を聴き、何度も聴き返したし、
彼らのホームページやツイッターにもアクセスすることになって、私っ
てマニアックかなと、私自身思いそうになったのである。
 まあ、人は、必要なものには自然に引き寄せられるということなのだ
ろう。
 ところで、The Sing-offに参加した三年前、ペンタトニックスは二十
代前半から高校生までの素人グループだったが、初回から場の雰囲気に
呑まれることなくプロみたいだった。
 彼らは、個々に違った旋律を歌いながらも全体としての統一感を作り
上げる技を持っていて、アカペラとは、行儀良くその場に突っ立って歌
い、誰がどの旋律を受け持っているかわからなくてもいいから、美しく
ハモればいいお上品な音楽、と思い込んでいた私は気持ちよく裏切られ
た。
 彼らの歌は、五人のうちの誰か一人が欠けても成立しないことがひし
ひしと伝わってくる
 しかも、よく似た顔だと同じ人に見えてしまう私ですら間違えようが
ない五人組。名字からもわかるが、彼らの先祖の出自は、アングロサク
ソン系、スペイン系、イタリア系、ユダヤ系、ナイジェリア系、とばら
ばらで、まさしく現代のアメリカ。目移りさせられるのが楽しい。
 衣装のセンスも現代的でおしゃれだし。
 本当はビデオで見たい、コンサートに行きたい。
 でも、とりあえず、あしたCDが届く。