おんぶを勧めた時

 母乳が出ないという友に粉ミルクとの併用を勧める際、医学的な情報
も添えた方が納得してもらえると考え、そういうホームページを紹介し
たが、その二ヶ月後、新たに、聞く耳を持ってもらえそうな情報を探し
出してきて、婉曲に友を説得することになった。
 彼女からのメールの発信時刻が夜中の二時頃、という時間の遅さに、
「驚いた」
 と書いたら、昼間は息子が抱っこから降りてくれないので何もできず、
きのうのあの時間は授乳時間で起きていたのだ、という返答。
 単なる事実の報告で、相談ではない。
 が、彼女と私は共感の仕方が同質のようなので、思い切って、おんぶ
を勧めてみることにした。
 でも、やっぱり、すぐに本論に入れない。
 昔、スキーに行った際、二両編成ぐらいのローカル線で、向かいの長
い座席に座った母親が、子供がハイハイして自分から遠ざかろうとする
のを引き寄せるが、子はまたハイハイ・・・という光景が懲りず繰り返
されるのを、閑散とした車内で微笑ましく眺めていたら、私の側に座っ
ていたおばあさんが、
「おぶったらええ」
 みたいなことを発言した。
 赤の他人から指図するようなことを言われて、若いおかあさんは嫌だ
ろうな、無視するだろうと思ったら、返事はしないが、おんぶ紐で子を
おぶう。子供は別段ぐずることもなく、母子共に安全かつ幸せな状況が
開始した。
 そんな過去の目撃談、そして、現在の例としては、五人の子持ちの友
達はおんぶ紐で両手が空く状態を作っていることを書いた。それでも、
結局は個人の趣味、主観の域にとどまる話になりそうなので、おぶわれ
る子の立場からおんぶの良さを理論的に説いたホームページを見つけて
きた。
 抱っこ紐は、ほら、私はこんなにも我が子を慈しんでいるでしょ、と
いう思いが形で具現化されて、親には甘美だろうけど、抱かれた子供は、
大抵、可能な限り首を捻って外界を見ようとしている。
 そりゃあ、目の前に親の胸が迫っているって、つまんないよねえ。
 子供目線で憐れんでしまう私であったが、そのページには、おんぶの
方が子の視野が広がる、つまり視覚への刺激が増して脳に良い、と私の
観察を評価してくれるだけでなく、腰をしっかり支える形が子供の発育
に良いというような解説もある。
 まあ、右には右の、左には左の正義正論があるものなんだけど。
 友は、おんぶも、即、採用。
 ホッとしたが、疑問が芽生えた。
 この一連の私のアプローチの仕方は正しかったのだろうか。