フランスのバターキャラメル

 東京在住のフランス人が出張で来るというので夕食に誘われたが、プ
レゼントを渡すから何か入れる袋を持ってきて、という言葉に悩まされ
た。
 彼が普通に持っていないような袋がいるってことなの。
 訳がわからないまま、服を買った時の大きな紙袋と、中サイズのレジ
袋を持っていったら、レジ袋で事足りた。彼は本当にレジ袋の予備を一
つも持っていないらしい。
 それも驚きだったが、彼が愛飲しているというほうじ茶も、パリの空
港で買ったというバターキャラメルも、剥き出しで渡されたっけ。荷物
の嵩を減らすためにそうしたのかなあ。中身で勝負だと・・・。
 謎多きは、男の行動である。
 このキャラメルを、ニホン人の知人にお裾分けしたら、美味しいと言
ってくれた。食用と思えぬきつい香料ゆえ、これぞフランスという感じ
がするフラヴィニーのボンボンを渡した時は不評だったことを思うと、
悪くない反応だ。
 私は、家で、甘い物がほしくなったら、このキャラメルに手を伸ばす。
 が、外包みとその中のワックスペーパーを開けてキャラメルを取り出
し、口に放り込むまでを指先任せで行なうと、思わぬ障害にぶち当たる。
 ワックスペーパーには、柔らかいキャラメルの衛生のため、とか何ら
かの目的があるんだろうけど、端っこがキャラメル本体にのめり込み、
無理に剥がすとキャラメルに埋もれたままになるし、無理に引っ張らな
くてもそうなるのが結構紛れ込んでいるのだ。
 しかし、目の前の食べ物を一つ一つ目で見、鼻で嗅いで安全を確認す
るのが太古から常識だったとするなら、そうしなくて良い状態に慣れき
ってしまうと、五感の危機管理能力が廃れる。
 この程度の不都合は、笑ってさらっと対処するのが世界標準なのかも。
 なんにせよ、美食の国フランスでも庶民向けのキャラメルはこの程度、
とわかったわけだが、ショックはない。
 むしろショックは、レジ袋だ。
 レジ袋が有料になる前にスーパーマーケットでもらったのを大量に保
存してあるが、いい加減使わないと、と今回、その中から持っていこう
としたら、三分の一ほどが黄ばんでいる。
 未使用なのに黄ばんでいるというだけで、なんか嫌で、製造時期がも
っとあとの黄ばんでいないのを持っていった私。
 いつか役に立つ日が来る、と未来を確信して取り置く時、その「いつ
か」の時までの時間経過は考慮しない。そういう間抜けさって、誰にで
もあるのだろうか。
 経年劣化。
「劣化」という単語に、私の思考は別の方向に飛んだ。